その計算、本当に合ってますか?
耐衝撃時間をシミュレーションに組み込み、一定の成果を得た後に、ふと気が付いたことがありました。
このブログを始めた当初、ランニングの効率は1 km当たりの仕事量を指標としていました。これはフルマラソンの距離を走ることを想定して、エネルギー消費量が少ない方が有利であるという考えに基づきます。
その後、最大の仕事率Pmaxを導入しました。これは、効率が良くても、瞬間的に発揮される筋力の最大値が制約になる場合があると考えたためです。本来は力でも良いのですが、実際に発揮される仕事を基準にしたため、仕事率になりました。
こうして、仕事率という考えに至っていたにも関わらず、さらに、サイクリストの筋出力を引き合いに出したにも関わらず、重力ランニングの平均の仕事率を計算していませんでした。Pmaxは一瞬の出力ですが、ランニング中に継続して出力する仕事としての仕事率を計算すれば、運動強度の指標となります。つまり、1 km当たりの仕事量が最小であったとしても、継続できる運動強度でなければ実現できません。平均の仕事率が制約となり、距離当たりの最小の仕事量が実現できないのです。今日まで、この点を検証していませんでした。
そこで、各速度における平均の仕事率Paveを計算してみることにしました。Paveが現実の人間が実現できる範囲に収まっているかを検証するため、現実の人間がどのくらいの仕事率を発揮するのかを調べてみました。
- 重力ランニングの水平方向の平均の仕事率を計算し、サイクリストの仕事率と比較したところ、現実的な値であることがわかった。
- 重力ランニングの全体の仕事量Wをランニングの消費カロリーと比較しところ、約3割少ない値であることがわかった。
- これらより、重力ランニングのシミュレーションは、少なくとも大きな間違いを含まず、現実的な結果であることが示された。
サイクリストの仕事率との比較
インターネット上を探してみたところ、ランナーの仕事率を算出しているWebサイトはありませんでした。やはり、サイクリストの筋出力を引き合いに出すしかなさそうです。
以下のサイトに健康なサイクリストであれば250Wから300Wを継続して出力でき、また、ツールドフランスに出場するサイクリストは400Wを継続して出力できると書いてあります。これを基準に考えてみようと思います。
https://gigazine.net/news/20210717-tour-de-france-calories-burn
では、重力ランニングにおける平均の仕事率を見てみましょう。5.0 m/sでは705 Wの仕事率となりました。これは私の期待に反して大きな値です。ただ5.0 m/sの速度で走るだけで、ツールドフランスに出場するサイクリストの巡航よりも、大きな仕事率を発揮しているとは思えません。
サイクリストの仕事率は自転車の加速度と空気抵抗と道路の傾斜を考慮して、一定の質量の物体を路面に対して平行に進む仕事だけを計算していると考えます。道路が水平であるならば、水平方向の成分だけです。重力ランニングの全体の仕事Wは、水平方向だけでなく、垂直方向も考慮に入れています。重心が上下に動くたびに仕事をしているわけです。重力ランニングとは、二足走行でどれだけ効率を高められるかを追求する取り組みですから、垂直成分を考慮するのは不可欠です。これを取り入れることで、上下動を最小化するシミュレーションが可能になるためです。
しかし、今回の比較対象は水平成分だけを対象としているため、重力ランニングの仕事率も水平成分だけを抽出する必要がありました。そこで、これをPavexと名付け、改めて計算してみたところ、5.0 m/sにおいて351 Wとなりました。1キロ3分20秒の速度ですから、これで継続して走ることができるのならば、フルマラソンで2時間20分となります。エリートランナーと呼んで良いレベルですが、男子の日本代表にはなれません。それくらいのパフォーマンスで、ツールドフランスに出場するサイクリストの巡航と同等か少し小さな仕事率となりました。自転車とランニングで直接的な比較はできないため、これ以上の定量的な比較はできません。しかし、シミュレーションとしては、現実的な値に収まっていると判断しました。そうであるとするならば、水平方向だけでなく、垂直方向も含めた仕事率も妥当な値であると類推され、シミュレーションの信憑性が高まりました。
消費カロリーとの比較
ついでに別の方法での検証も行いました。仕事率は単位時間に発揮される仕事ですが、ランニングについては、消費カロリーという名称で仕事量が提示されていることがよくあります。
そこで、以下のWebサイトでランニングの消費カロリーを計算してみました。
出典:https://keisan.casio.jp/exec/system/1536633800
すると、188 m/min(約3.1 m/s)で走ったときの消費カロリーが256 kJ/kmとなりました。一方、重力ランニングのシミュレーションでは全体の仕事Wが188 kJ/kmとなりました。まず、桁数が合っています。さらには、重力ランニングは、ランニングの仕事量を最小化していることを考えると、上記消費カロリーに比べて小さいのは予想される結果です。よって、こちらも現実的な値であると言えます。
まとめ
今回は、平均の仕事率の水平成分Pavexについて検証してみました。さらに、ランニングの消費カロリーと全体の仕事Wを比較してみました。その結果、両者とも、現実的な値であることがわかり、重力ランニングの信憑性が高まりました。というよりも、現実的な値に収まって安心しました。