ランニング中の着地位置は速度によってどのように変わるのか。

ランニング中に私は常に着地に神経を使っています。着地の瞬間に足裏で感じる衝撃が最も小さくなるよう、身体の動きを調整しています。具体的には、地面に対して垂直方向の速度をできるだけ小さくすることを意識しています。さらに、地面に対して平行方向の速度もできるだけ小さくし、着地時の摩擦を減らします。

このような最適化を進めていくうちに、速度によって最適な着地位置が変わることに気づきました。以前は、速度を増加させる際、地面を強く蹴ることでストライドを大きくするイメージを持っていました。筋出力がアクセルの役割を果たしていたのです。現在では、身体を前方に傾けることで、自然に速度が増加します。このときに、衝撃が増さないように着地位置を調整する必要があることに気が付きました。この感覚を得た後、重力ランニングのシミュレーションにより、着地位置がどのように移動していくのか確認してみたくなりました。

  • 巡航速度を上げるには、地面を強く蹴るのではなく、最適な着地位置を見つけることが肝要である。
  • ランニングにおける最適な着地位置は、重心のほぼ直下であり、速度を上げると徐々に浅く(身体重心に近く)なっていく。
  • 特に中年以降は、定常速度からの加速時に新たな速度における最適な走動作を即時に模索する必要がある。

速度の増加による着地位置と離地位置の変化

確認には、既に行われたシミュレーションの結果を使用します。元データは以下の記事に記載されたものです。

平均速度Vを変化させていった場合の足が着地する位置と離地する位置をプロットします。原点は身体重心です。このグラフによって、速度ごとに人が足をどこに運ぶかが見えてきます。意図していなかったのですが、このグラフはウォーキングとランニングの切り替わりをこれまでになく明確に示してくれました。動きの変化を象徴的に見ることができるのです。それでは、グラフを見てみましょう。このグラフでは、同一の速度における着地位置と離地位置を直線で結んでいます。線分の左端が着地位置であり、右端が離地位置です。

最も遅い1.0 m/sから始め、順に高速を見ていきましょう。着地位置と離地位置の変化の方向は、速度に応じて異なります。

ウォーキング領域

1.0 m/sから2.1 m/sまでは、線分は水平です。重心に対して、着地位置と離地位置が同じ深さ(身体重心から見た垂直方向下向きの距離)にあることを示しています。別の言い方をすると、接地区間において身体重心が一定の高さを保ちながら水平に移動するということです。つまり、ウォーキングです。ただし、速度が増加するにつれて深さは小さくなり、ストライドが大きくなっています。

スイッチング領域

2.1 m/sから2.3 m/sまでの範囲では、急激で不規則な変化が見られます。まず、水平だった線分が右下に傾き始めます。滞空が入るため、着地の深さに対して離地の深さが大きくなります。接地区間において身体重心の高さを回復するプロセスが始まるのです。つまり、ランニングへと切り替わったということです。この間、線分のx軸方向の長さが短くなるのは、ストライドが小さくなったことを示しています。

ランニング領域

2.3 m/sから2.5 m/sの間でわずかに傾きが変わります。その後は単調な変化を示します。まず、線分の傾きは一定です。着地位置の深さは、速度が増加するにつれて浅くなります。しかし、着地位置は速度に拠らず、ほぼ重心の直下に位置します。一方、離地位置は速度が増加するにつれて、より浅く、より後方に移動します。

このグラフから何が言えるのか

今回は、新しくシミュレーションをやり直したわけではありません。ただ、従来のデータの見せ方を変えただけです。しかし、重要な示唆を含んでいます。速度の増加に伴う変化を追っていくことで、実際のランニングにおける着地位置の調整が可能になります。特に指摘したいのは、巡航速度を変化させる場合への適用です。例えば、4 m/sで走っていた場合、そこから4.5 m/sに速度を変更する際、どのように走動作を変化させれば良いかがわかります。脚で地面を蹴ってストライドを大きくすることで、速度を4.5 m/sにすることは可能ですが、それでは重力ランニングの原則を外れ、ランニングエコノミーが著しく損なわれます。

重力ランニングの原則を守り、4.0 m/sの最適点から4.5 m/sの最適点へ滑らかに移行するのが最良です。このとき、着地位置は身体重心の直下の約94.9 cmから、身体重心の直下の約92.0 cmへ変化します。速度を増加させるときには、着地位置を浅くするのです。そもそも、この点がランニングコミュニティの常識とは異なるのではないでしょうか。一方、離地位置は約99.4 cmから約97.7 cmへと浅くなり、後方に約41.9 cmから約52.6 cmへシフトします。ただし、離地位置については意識的に調整する必要はないと考えています。速度と着地位置の調整が行われれば、離地位置は必然的に決まるからです。

ランニングを始めた直後は順調に記録が伸びていたが、ずっと頭打ちになっている人は、一定の巡航速度における最適な走動作を確立した後、筋出力の足し算になっている場合があると思います。走り慣れた巡航速度に対して、筋出力の足し算で稼いでいる分の速度は、背伸びをしている部分であり、筋力を鍛えても長続きさせることはできません。それでも、若いうちであれば、無理をしている間に身体が強くなり、より高速における最適点を確立することができます。しかし、私のような中年ランナーが筋力を鍛えて何とかしようという発想にすがると、身体が先に悲鳴を上げます。

ある程度走り慣れたランナーであれば、自分の継続できる巡航速度がわかっているはずです。その巡航速度で走っているときはリラックスしており、最適点に近い走りができているため、長時間走り続けることができます。しかし、走り慣れた巡航速度から速度を増加させると苦しくなるのは、単純に速度に伴う負荷が身体にかかるからではなく、速度を増加させようとしたときに最適点から外れてしまうからだと思います。速度を増加させるには、その巡航速度における最適な走動作に筋出力を追加するのではなく、新しい速度における最適化された走動作を見つける必要があります。

上記のようなランニングの物理を理解し、小さなスピードアップを加えるたびに最適点を意識的に探していくことが、必須だと考えます。

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