フルマラソンという「ゲーム」に大人がハマる5つの理由
つくば市では実に多くのランナーを見かけます。私も日々走っていて、同じコースを反対回りに走る人の顔を何人か覚えているほどです。つくば市ほどではないにしても、全国的に多くのランナーがいることは間違いありません。つくばマラソンのエントリーなどは、数分で締め切られてしまうほどの人気です。全国的にもマラソンの人気は明らかです。
なぜ、それほどまでにフルマラソンは人を惹きつけるのでしょうか。私の考える理由は以下の通りです。
1. 努力に応じて、成果が出やすい
人は「進捗している」と感じることができれば、物事を継続しやすくなるそうです。「何をしているか」「何のためか」よりも、「前に進んでいるかどうか」が重要なのです。
社会人になると、仕事に多くの時間を費やさなければなりません。しかし、仕事では、頑張っても必ずしも成果が出るとは限りません。仮に成果が出ても、それが目に見える形になるまでには長い時間がかかることも多く、辛抱強く取り組み続ける必要があります。多くの人にとって、それが仕事との向き合い方ではないでしょうか。人生全般を見ても、物事は思うようには進みません。むしろ、人生は困難の連続だといえるでしょう。
そこで人は、ビデオゲームのような分かりやすい世界に惹かれるのです。ビデオゲームは、現実の一面を取り入れつつも、現実よりもはるかに簡単に物事が進むように設計されています。真面目に取り組めば、自分自身が上達し、あるいはキャラクターが強くなっていきます。ゲーム内の状況が次第に好転するため、人は快感を得ることができます。そのため、人はお金や時間、労力をかけてでもゲームを続けたくなるのです。しかし、少し賢い人は、ビデオゲームに注ぎ込む金や時間、労力が無駄であると気づくか、最初からそのことを知っています。こうした人が何かのきっかけで走り始めると、ランニングにはまりやすいのです。なぜなら、ランニングもゲームと同様に、努力が成果として表れやすいからです。

ランニングは、誰でも真面目に続ければ状況が好転します。1kmも走れなかった人が1kmを走れるようになり、次第に5km、10kmと距離を伸ばし、やがて速度も上がっていきます。レースに出るようになると、目標タイムを設定するようになります。きちんと練習すれば、多くの場合その目標を達成できます。そのためのハウツー本も数多く出版されています。つまり、人生の多くの場面に比べて、圧倒的に成果が出やすいのです。社会人になってからのランニングの方が、仕事よりもはるかに努力と成果の因果関係が明確です。
特に、社会人になって運動から離れていた人や、もともと運動経験のない人ほど、目に見える成果を感じやすい傾向にあります。中高生や若者はもともと身体が衰えていないため、「努力した分だけ速くなる」という感覚は得にくいかもしれません。
「努力した分、必ず夢は叶う」というのは、THE ALFEEの歌詞の一節ですが、大人がそんな蒼いことを言うのかと、最初は思いました。けれどもこれは、2011年の大阪国際女子マラソンのイメージソングだったのです。
2. 実は運動の才能が必要ない
ランニング関連の書籍では「運動経験ゼロの○○がたった△△で◇◇達成!」というようなサブタイトルをよく見かけます。これは「運動経験がない人は長距離も苦手」という思い込みが前提にあるからです。だからこそ、その成功例が「すごい!」と感じられるのです。
しかし、多くのランニング本を読んでみると、「サブスリー(フルマラソン3時間切り)」は、マラソンという競技を理解し、適切なトレーニングを積めば達成可能な目標であることがわかります。誰にでもできるとまでは言いませんが、必要なのは運動神経ではなく、「計画性」と「実行力」、そして「根気」です。
持久力は、人間という哺乳類が自然界で生き延びるために進化させてきた、基本的な能力です。つまりそれは、特別な才能ではなく、生まれつき備わっている「標準装備」だと考えるようになりました。走るという行為は、ほとんどの人が教わらずとも自然にできるものです。走れるという一点さえ満たしていれば、レースに参加する資格があるのです。オリンピック選手ですら、やることは「走る」だけです。
これが球技になると、話は別です。球技ではボール操作や判断力など、多様な技術が要求されます。特にサッカーやバスケットボールのようなチームスポーツでは、相手や味方の動きを瞬時に判断し、最適なプレーを選択しなければなりません。これらのスキルは、幼少期からの経験がなければ身につきにくく、未経験の大人が後から上達するのは極めて困難です。
その点、ランニングは大人になってから始めても、技術的な障壁がほとんどありません。むしろ、計画性や根気といった要素は、大人になってからの方が備わっていることが多く、才能に関係なく成果を上げやすいスポーツなのです。
3. 運動未経験者が早期に成功しやすい
走るだけとはいえ、ハーフマラソンとフルマラソンの間には大きな違いがあります。ハーフマラソンまでは、エネルギー管理を意識しなくても走り切れる場合が多いですが、フルマラソンではそうはいきません。エネルギーの温存と消耗の管理ができなければ、完走は難しくなります。
5kmや10kmのレースでは、小学生の頃から運動が得意だった人や、若い頃の身体能力を保っている人が有利です。足が遅かった人や運動が苦手だった人にとって、こうしたレースはハードルが高くなります。
しかし、フルマラソンでは状況が一転します。前半にスピードを抑え、後半に備えるというレース運びを実行できる人が成功します。ところが、若い頃の運動成功体験がある人ほど「前半で稼ごう」として失敗しやすいのです。
その点、運動経験が乏しく、自信がない人ほど、専門家が書いた練習方法やレース戦略を素直に実行しやすい傾向があります。その結果、失速せずに42.195kmを走り切り、短期間で目標を達成できるのです。
4. 社会的に認めてもらえる
マラソンは非常にメジャーなスポーツです。2024年には日本国内だけで92のフルマラソン大会が開催され、完走者は33万5,852人に達しました(出典:マイナビニュース)。
誰でも参加できるという特性から、競技人口も非常に多く、多くの人にとって「よく知られている」スポーツと言えるでしょう。そのため、「マラソンに出て完走した」「○時間で走った」という話は、他のマイナースポーツの成果に比べて、社会的に共感を得やすいのです。
5. 若さを維持できる
ランニングを習慣にすることで、身体的・精神的に多くのメリットが得られますが、最も重要なことは「身体を若く保てる」ということです。具体的には次のような効果があります。
- 体形の維持(筋肉が鍛えられ、皮下脂肪が減少することで、おじさん体形・おばさん体形になりにくくなる)
- 肌の若さの維持(汗腺が活発に働き、老廃物が排出されるため)
- 健康診断の数値が改善される
- 気力・体力の維持(よく眠れるようになる)
- 精神的に明るくなる
人は皆、やがて老いて死んでいくという運命からは逃れられません。だからこそ、唯一無二の自分の身体を、できるだけ若く保ちたいという願いは、誰にとっても共通するものだと思います。極端にストイックに取り組まない限り、ランニングはこの願いをかなえる、最も手軽で確実な方法の一つです。一旦、ランニングを習慣にした人が、走れる限り、走り続けようとするのは、結局、このためです。