体内時間の遅れとは、具体的にどれくらいなのか?

体内時間の遅れを発見してから、私の感覚としては着地が滑らかになったと感じています。これにより、無理なく走れるレベルが少し向上しました。

どのくらいの時間を前もって指示を出すかについては、現時点では感覚に頼って決めています。少し早めに着地をイメージし、その後の着地の衝撃を最小化するようにしています。実際には、時間というよりも位置で調整しています。着地点は身体重心の直下であるため、目標位置は身体重心より少し前方、地面より少し上方に設定しています。

前回の記事では、まだ詰め切れていない部分があると感じています。なぜ時間の遅れが発生するのか、物理的な説明が不足しているため、読者にうまく伝わっていないと思います。そこで、この記事では体内時間の遅れが生じる仕組みを詳しく解説し、その遅れを数値化してみようと思います。

体内時間の遅れが生じる仕組み

調べてみると、筋運動に使われる神経の信号伝達速度は70~100 m/sとのことでした。今回は70 m/sを採用することにします。光の速度に関しては計算しても意味がないため、無限大として扱います。自分の経験から、着地するタイミングは目視で決めていると考えています。足元を見ているわけではありませんが、前方の景色を見て地面との位置関係を判断しています。つまり、以下のプロセスで運動が起こります。

  1. 地面から太陽光が反射する。
  2. 光が目に入る。
  3. 網膜の錐体細胞が活性化する。
  4. 視神経を通って信号が脳に到達する。
  5. 脳が情報を基に着地時の動作をイメージする。
  6. 運動神経を通じて全身の筋肉へ信号が伝達される。
  7. 筋出力が発生する。
  8. 着地する。

ランニング中は、このプロセスの間に常に前方に進んでいます。体内時間の遅れが意味するのは、神経伝達の時間を考慮していないことだと仮定できます。別の言い方をすれば、5のプロセスに時間がかかっていることを人は理解しているということです。したがって、4と6のプロセス時間が体内時間の遅れとなります。なお、3と7の時間もゼロではないと思いますが、調べた限りでは詳細なデータは見つかりませんでした。

4のプロセス時間によって、目で見たときにはすでに前方に動いているため、状況は少し変わっています。しかし、そのことに気づいていません。その後、6のプロセス時間によって筋出力が発生するまでに遅れがあるため、間に合うつもりが実際には間に合わないという現象が起こります。

ここまで書くと、運動をぴったり合わせることがいかに難しいかが分かります。例えば、野球のバッティングにおいて空振りがよく起こる理由も、この遅れにあります。ボールを見て打ったつもりでも掠りもしないのは、この遅れが原因です。人間がその遅れの時間を考慮していないことが誤りなのです。その時間を認識し、考慮すれば、解消することは可能だと考えます。

また、自分の身体を操作する際に物理法則を無視し、単にランダムなトライアンドエラーのフィードバックだけを行うことで結果を得る方法もあります。地球の重力加速度が9.8 m/s²であるとか、自由落下の距離は時間の2乗に比例するなどの知識は、走るためには必ずしも必要ありません。幼児が身体の感覚だけで走りを習得するように、大人も走りを研鑽するために物理的な法則を知る必要はありません。現状の走りを様々に変えて、より速く走れる方法や、消耗せずに走れる方法を採用することで上達することは可能です。そして、新しい走り方を再度様々に試すことで、さらに上達していきます。この繰り返しを行えば良いのです。このことは、野生動物が証明しています。チーターやダチョウがあのスピードで走るのも、単純なフィードバック学習による結果だと私は考えています。確固たることは言えませんが、少なくとも物理法則を知らないことは確かだと思います。

体内時間の遅れの見積もり

さて、遅れの時間を計算してみます。神経伝達速度から計算しようとしましたが、より適切な文献を見つけました。100m走におけるスタート時の反応速度に関する研究です。ピストルの音を聞いて動き始める反応時間の平均は148 ms(約0.015秒)とのことです。この時間は、音を耳で聞いてから身体が動き始めるまでの時間ですが、この記事で議論している、光を目で見てから身体に指示を出すまでの時間とほぼ同じと考えられます。目から脳までの距離と耳から脳までの距離はほぼ同じなので、神経伝達時間も同様に近いと考えます。100m走の反応時間はスターティングブロックにかかる圧力上昇を検知するため、脚の動きが検知されています。つまり、脳から信号が出て、脚を動かすまでの時間が体内時間の遅れに寄与すると考えます。

https://www.ritsumei.ac.jp/~isaka/ronbun/otsuko201903.pdf

ひとつ考慮すべき点は、0.015秒という数字が、100m走の選手のみを対象にした平均値であることです。この値は最も反応が速い部類の人間が、最も集中している状況での結果です。したがって、一般的な人々の反応時間はもっと長いと予想されます。このため、0.015秒は現実的な想定の下限値として考えます。人間がイメージする動きが身体に反映されるまでには、最低でも0.015秒の遅れを生じるということです。この記事においては、一般ランナーの場合、倍の0.030秒として計算します。一般ランナーが0.03秒前に動きをイメージする場合、足は着地点からどれくらい前で、地面からどれくらい上に位置するのでしょうか。以下の記事で作成したアニメーションの座標を利用して、着地の0.030秒前の足の位置を読み取ってみました。

平均速度V前方上方
5.0 m/s0.118 m0.006 m
4.0 m/s0.091 m0.009 m
3.0 m/s0.064 m0.014 m

その結果が上の表になります。5.0 m/sは1キロ3分30秒のペースです。この場合、実際に着地する位置の前方12 cmに足が着地するかのように身体に指示を出します。同様に、4.0 m/sでは前方9 cm、3.0 m/sでは前方6 cmでした。これらの値に関しては、私に違和感はありませんでした。

上方のズレについては、速度が遅いほど上方へのズレが大きくなることが意外でした。5.0 m/sのとき、地面より6mm高い位置に着地するかのように制御するのは難しいと感じました。つまり、この場合、感覚的には前方に着地するイメージである(地面の上方ではない)と思います。しかし、速度が下がるにつれて、高さのズレも大きくなります。4.0 m/sでは1 cmでした。これは、私がふくらはぎを傷めた後に着地を改善したときの想定と一致します。ほぼ地面に近いですが、指1本分だけ高いところに着地するイメージで良いわけです。

これを踏まえると、高速で走るエリートランナーは、実際よりも前方に着地するイメージを持つことで、体内時間の遅れをほぼ最適に解消できます。一方、一般ランナーは、前方のズレだけでなく、上方のズレも調整する必要があります。訓練を積んでいない一般ランナーが2つの軸で調整しなければならないというのは皮肉なことです。この調整が壁となり、一般ランナーは速度を上げることができないのです。そのため、エリートランナーの境地に到達できず、苦しんでいるのではないかと考えます。

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