重力ランニングを基礎から学ぶ:ウォーキングを通して感覚をつかむ

重力ランニングの理論を理解し、筋肉走りと根本的に異なることを実感した方は、実際に試してみたくなることでしょう。しかし、いきなり走ることは難しいので、まずは歩くことから始めましょう。筋肉歩きから重力ウォーキングへと移行することで、自然と筋肉走りが重力ランニングへと変化します。

以下に、その方法を説明します。原則として、これまで行ってきたシミュレーションの数値を例に挙げて説明します。ここでは、身長170cm、体重60kgの人を想定しています。今回の重力ウォーキングでは、速度は2.0 m/s、つまり分速120mで歩きます。この速度は、一般的に「早歩き」と呼ばれるものです。

手順

1. セットアップ

最初に、両脚を揃えて真っすぐ立ってみてください。このとき、身体の各部分を垂直に積み重ね、脱力してください。脱力は全ての基本です。次に、身体重心を5cm低くします。この点は非常に重要です。重心の下げ方は人それぞれです。Aタイプの方は、鳩尾を身体重心だと意識してみてください。Bタイプの方は、腰椎を意識してみてください。膝を軽く曲げておくことは、タイプに関係なく必要です。下げ幅は厳密でなくても構いませんが、真っすぐ立っているのではなく、しっかりと下げることが重要です。

2. 身体重心を前方に水平に移動させる

膝を軽く曲げておいた状態でなければ、身体重心を前方に水平に移動させることは不可能です。膝を伸ばした状態で身体重心を前方に動かそうとした場合、以下の図からわかるように、接地点を中心に円を描くように身体重心が動くため、重心の高さが低下してしまいます。市販の本でも「身体を前方に傾けることで重力を利用する」と書かれています。これは間違っていません。しかし、決して膝を伸ばした状態ではいけません。

膝を軽く曲げておいた状態から、身体を前方に倒すのではなく、前方に水平に身体重心を移動させていきます。すると、接地点と身体重心の距離が増加するため、膝を伸ばすか股関節を伸ばすなどして、接地点と身体重心を離さなければなりません。

3. どちらかの脚を踏み出す

身体重心の移動が始まったと感じたら、どちらかの脚を離地してください。片脚が接地していれば、加速は可能です。離地後はその脚を速やかに前方に送り、着地に備えます。

4. 着地の準備をする

着地は重要です。しかし、着地の瞬間のために事前に足の動きを制御しておくことが、さらに重要です。これによって、着地の成否が決まります。以下の4点を守ることで、最適な着地が実現します。

(ア) 膝を曲げておく

膝を曲げておくことが絶対条件です。オリンピックの競歩では、着地の瞬間に膝が伸びていることがウォーキングの要件ですが、重力ウォーキングでは、そうではありません。重力ウォーキングにおいては、着地の瞬間を経ながら、身体重心を水平方向に運び続けます。仮に着地の瞬間に膝が伸びていると、脚がつっかえ棒のように働き、身体重心が上昇します。運動エネルギーが位置エネルギーに変換され、これによりブレーキをかけているのです。

上の図で示されるような動きがそのまま起こっているとは思いませんが、似た状況が実際に発生しています。普通の歩行者が歩いていると、速度が遅くても着地時にドンドンと低い音が聞こえることがあるでしょう。これは地面に足が衝突している音です。これを避けるためには、足裏と地面の相対速度をゼロにして接地させることが重要です。膝が伸びていると、このような着地は不可能です。膝を軽く曲げておくことが前提となります。

(イ) 地面に対して垂直方向の速度をゼロにする

着地の瞬間、地面に衝突せず、そっと物を置くように着地することを意味します。ウォーキングでは片脚が接地している間、残った脚は身体重心よりも後方に位置しているため、身体は前方に倒れてしまいます。そのため、離地している脚をゆっくりと降ろすことは簡単ではありません。身体が前方に倒れる速度を相殺するために、足を上方に引き付ける動作が必要です。

また、体内時間の遅れを考慮して、地面より1 cm上空に乗り込むように動作を行います。実際の地面に乗り込むイメージでは、地面に衝突してしまいます。詳しくは以下の記事を参照してください。

(ウ) 地面に対して水平方向の速度をゼロにする

仮に垂直方向の速度をゼロにしたとしても、前方に進んでいるままの脚が着地すると、摩擦で擦れてしまいます。これは、脚が持っていた前方への運動エネルギーが無駄になっていることを意味します。この摩擦のエネルギーは、靴底を摩耗させ、足裏にマメができる原因にもなります。したがって、着地の瞬間に地面に対する水平方向の速度がゼロになるよう、足を後方に引き付ける必要があります。身体重心が地面に対して2 m/sで進んでいる場合、足を身体重心に対して2 m/sで後方に引き付ければ、差し引きゼロになります。

(エ) 身体重心の高さを変えない

着地する瞬間の身体重心の高さを気にしてください。この段階では着地する準備をしているので、着地する瞬間の身体重心の位置が変わらないように着地する足を運ぶことを意味しています。身体重心の垂直方向の動きは無駄です。これを実現するためには、(イ)と(ウ)を実現しながら、身体重心を上下させないことが重要です。シミュレーションによれば、地球上の重力場の中でこれは可能です。また、人間の脳には、この動きを組み立てるための処理能力があります。

5. 着地する

着地の瞬間は脱力を意識しましょう。脱力していても、着地の瞬間には、身体の反射により、必要な筋力が発揮されます。着地の前の準備は意識しつつ、実際の着地は無意識のうちに行うのが理想です。

6. 離地する

ウォーキングでは実質的に滞空時間がありませんから、着地したらすぐに、あるいは、着地の直前に、後方に残っていた足を離地します。両足が接地している時間は、無いか、長くても一瞬です。離地した脚を前方に運びながら、7と8の手順を実行します。

7. 体重を水平方向前方へ運ぶ

ウォーキングでは、着地位置が身体重心よりも前方にあります。2.0 m/sでは、着地位置は27 cm前方です。このため、着地後は着地位置が身体重心に近づくことになります。別の言い方をすれば、膝を屈曲し、足を引き付ける動きになります。このとき、身体重心が持ち上がらないようにすることも注意が必要です。膝を屈曲し、足を引き付けたとしても、身体重心が上がってしまうのであれば、膝の屈曲が不十分です。身体重心の上下動は無駄であり、重力ウォーキングでは身体重心は水平に動く(上下動はない)ことを心掛けましょう。

8. 着地の準備をする

4と同様です。その後は、同じようにウォーキングを継続します。

アニメーションで確認

上記の内容を理解した上で以下の動画を見てみると理解が深まると思います。緑色の円と赤色の円が足を表しています。円の最下点が接地点です。足を前方に素早く運んでいる印象だと思います。しかし、着地の直前に減速し、地面に対して速度ゼロになって着地しています。接地位置は身体重心(紫の菱形)よりも前方です。身体重心が一定速度で動いているように見える点にも注目してください。身体重心よりも前方に足を着いている以上、減速は避けられません。また、後方に足を着いているのであれば、加速も避けられません。詳しい解説は以下の記事を参照して下さい。したがって、厳密に言えば、速度は1.85 m/sから2.08 m/sの範囲で周期的に変化していますが、見た目にはわかりません。

重力ウォーキングの指標

重力ウォーキングができているかどうかの指標は、以下の6つです。まずは、重力ウォーキングを練習してみてください。特に、着地の瞬間に注意を払いましょう。最もおすすめの指標はC)です。歩くときには足裏の感覚に集中し、衝撃が最小になるように足の動きを調節してください。

A) 主観的/視線が上下にぶれない

一般的な歩きでは、身体重心が上下に動いています。特に、着地の瞬間は身体が地面に衝突しているため、速度の変化が不連続に感じられます。しかし、人間の脳は非常に優れた能力を持っており、視線がぶれていても補正してくれます。重力ウォーキングを身につけていくと、視線が上下に動かなくなります。そして、歩いているときに視線がぶれていたことに気づくようになります。

B) 客観的/着地の音が聞こえない

水平方向および垂直方向の速度がゼロであれば、物をそっと置くような感じで着地するため、音が聞こえません。速度ゼロは理論上の話ですが、現実には完璧にゼロにはなりません。しかし、現代のランニングシューズは優れた技術を持っているため、多少の速度差があっても衝撃を吸収してくれます。ウォーキングにおいては、ほとんど音が聞こえないはずです。

C) 主観的/足の裏に衝撃がない

B)の指標を主観的に捉えた場合、足の裏に衝撃がないことになります。足と地面が衝突せず、速度ゼロで接しているため、当然、衝撃は感じません。足裏に感じる圧力の変化が緩やかになれば、重力ウォーキングができていると考えてよいでしょう。

D) 主観的/加速度を感じない

人間は加速度を感じ取ることができます。目を瞑っていても、自動車や電車が加速したり減速したり曲がったりした場合、それを感じ取ることができます。これは耳の奥にある前庭器官の働きによるものです。頭が上下せず、一定の速度で進んでいれば、加速度は感じないのです。

E) 客観的/身体が一定速度で進む

厳密に言えば「一定の速度」とは言えませんが、一般的な歩行と比べて、水平方向の速度変化が小さくなります。そのため、他人から見ると、滑るように進んでいるように見えるでしょう。

F)主観/次のような感覚を得る

  • 視線が一定の速度で動くので、自転車に乗っているような錯覚を覚える。
  • 一歩一歩にブレーキをかけないため、すぐに止まれそうにないという不安がある。
  • 一旦歩き始めれば、速度を維持するだけなので、楽に感じる。
  • 足裏の衝撃を感じないため、滑らかに波打つような動きになる。

注意点

以下の点に特に注意してください。

  • 足元を見ない
    ウォーキングの際には前方を見てください。重力ウォーキングができているかどうかは、視覚で確認することはできません。触覚を使って評価しましょう。
  • 力を入れない
    筋力で動きを実現することは間違いではありませんが、動きを精密に行おうとすると、身体に力が入ってしまいます。むしろ、脱力することを意識しましょう。
  • 足裏の衝撃を最小限にしようとするあまり、速度が低下しがち
    衝撃を最小にしようとしすぎると、速度が低下してしまいます。極端に表現すると、つま先立ちで忍び足をすれば、足裏の衝撃は最小になりますが、それでは歩行が本来の目的を果たせません。このような状況では、身体の上下動があり、また、水平方向の速度が緩やかな加速と減速を繰り返すことになります。耳(前庭器官)で加速度が感じられるかどうかを確認してください。

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