位置エネルギーと運動エネルギーの変換をマスターして効率的に走る

人間が筋力で前方へ進んでいると思っている人は多いのではないでしょうか。「筋力で前方へ進む」は正しいですが、これが「地面を後方に蹴ることで進む」となると正しくないことを理解している人は圧倒的に少数です。
それでは、人間が「筋力で前方へ進む」プロセスを詳細に見ていきましょう。

  • 身体が倒れることで重心の位置エネルギーを前方への運動エネルギーに変換する。
  • 失われた位置エネルギーは筋力で重心を押し上げることで回復する。

重心の位置エネルギーを運動エネルギーへ変換

人間が走る行為は、2本の脚だけを接地しているという前提の上に成り立っています。「うつ伏せになったまま走れ」と言われても、無理であることは明らかです。何故なら、2本の脚で立つことが走る上での必須の前提準備だからです。
立ち上がることで、人間の重心は高い位置に置かれます。つまり、大きな位置エネルギーを得ます。一方で、2本脚で立つことは不安定です。これにより、倒れることが可能になります。例えば、前方に人間が倒れるときには、重心が前方に移動します。足の裏の接地面を介して、重心の位置エネルギーを運動エネルギーに変換しているのです。もう少し細かく言えば、位置エネルギーが減少し、相当分の運動エネルギーを得ています。エネルギー変換が行われます。このとき、位置エネルギーが失われているというのは、重心の位置が低くなることを意味します。

位置エネルギーの回復

重心が低くなった分は、何らかの方法により重心を押し上げることで位置エネルギーを回復します。ランニングにおいては、どちらかの脚を踏み出して身体を支えて、押し上げ、位置エネルギーを回復することになります。
ここまでが、「筋力で前方へ進む」の1サイクルです。すなわち、「位置エネルギー→運動エネルギー、その後、筋力→位置エネルギー」という順序です。決して、「筋力→運動エネルギー」ではありません。
また、先に「筋力→位置エネルギー」という考え方もありそうですが、これは上手くいきません。この理由は今後、別記事で説明します。今は、失った位置エネルギーを回復するという順序を覚えておいてください。

(脱線になりますが、水中においては、「筋力→運動エネルギー」という表現で間違いありません。例えば、魚を例に取ると、ひれを筋力で動かし、水を押せば、その反作用で身体が移動します。ここには重力は介在しません。)

筋力の仕事

ランニング中に筋力を使うのは位置エネルギーを稼ぐためだけであり、地球の重力場の中で位置エネルギーを稼ぐとは、垂直方向に上向きに重心を持ち上げることを意味します。わかりやすく言うと、筋力は身体を持ち上げる作用のみをします。
人が走っているときには、あたかも脚で地面を蹴り、地面に対して水平方向後ろ向きの力を加えているように見えますが、それは誤った理解です。体重を支える地面との摩擦力(地面反力の水平成分)を使って、位置エネルギーを運動エネルギーに変換しているだけなのです。位置エネルギーを運動エネルギーに変換するプロセスにおいて、筋肉は体重を支えることだけを要求されます。つまり、筋肉は仕事をする必要はありません。位置エネルギーから運動エネルギーへの変換は、空中のボールが落下して加速するのと全く同様に、自然に起こる現象だからです。筋肉が関与する余地はないのです。

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