ランニングの筋力の最適値とは?重心を持ち上げないのがコツ!

ここまでに、ランニングが筋力→位置エネルギー→運動エネルギーという変換過程であることを見てきました。それでは、速く走るためには、どうすれば良いでしょうか。速く走るとは、運動エネルギーを稼ぐことです。運動エネルギーを得るためには位置エネルギーを稼ぐことが必要です。言い換えれば、身体の重心を持ち上げることが必要です。ただし、ランニングは継続的に運動エネルギーを稼ぐことを意味します。つまり、筋力の発揮も繰り返すことが前提条件に含まれています。すると、筋力を継続的に発揮して、単位時間当たりの仕事を最大化することが求められます。

  • 速く走るためには、運動エネルギーを稼ぐ必要があり、これは位置エネルギーを稼ぐこと、すなわち重心を持ち上げることに依存する。しかし、重心を上げ過ぎて脚が地面から離れるとエネルギー変換ができず、効率が悪化する。
  • ランニング中に発揮する筋力(脚力)は、身体の重心を持ち上げないようにするのが最適値である。これにより、重心が持ち上がらず、効率的に加速を維持することが可能となる。

筋力の作用線は必ず重心を通る

ところで、ここより先に進むために、1つ重要な原則を説明しておきます。人間が重心を移動させるときに発揮する筋力の作用線は重心を通るということです。筋力を発揮させるときに、筋力の作用線が重心を通らないとどうなるでしょうか。答えは非常に簡単で、身体が回転します。

例えば、立っている人が脚で地面を後ろ向きに蹴ったら、人間は前進しません。地面を後ろ向きに蹴るということは、脚に対して前向きの反作用を受けます。つまり、脚が前に進み、重心を中心にして身体が回転し、後ろ向きに倒れます。このことからも、人間が地面を脚で後ろに蹴っているわけではないと理解すべきです。それは頭の中で作り上げられた、誤った理解です。多くの人々は、この誤った理解と現実の物理法則を無意識に整合させて、日々、歩いたり、走ったりしているのです。

現実には、人間は身体を前方に傾けた状態で、脚で地面を押します。そのとき、常に作用線は重心を通ります。繰り返しになりますが、地面に対して水平方向に力を加えてはいません。

最大筋力を発揮するのはエネルギーの浪費

その中で、最大筋力を発揮するとどうなるでしょうか。最大筋力で重心に筋力を作用させると身体が速く上昇します。身体を速く上昇させると、速く位置エネルギーを稼ぐことができます。その間、足裏が接地しているうちは、位置エネルギーから運動エネルギーへの変換をしていれば、運動エネルギーも上昇します。

しかし、身体が速く上昇すると、その勢いで地面から脚が離れてしまいます。これが跳躍です。空中にいる間は、筋力で位置エネルギーを稼ぐことができません。この間の筋肉の仕事はゼロです。確かに跳躍により身体が到達しうる最も高い位置まで上昇します。しかし、足裏が地面を離れているとエネルギー変換もできません。身体が自由落下して、足裏が地面に着くまではただ待つしかありません。足裏が接地したら、エネルギー変換により運動エネルギーを稼ぐことができますので、それなりに加速した感じはします。いや、確かに加速していますが効率が悪いのです。私はこれを「筋肉走り」と呼んでいます。筋肉走りでは、筋出力と同時に加速度を感じるので、速く走れている気がします。だが、落下中に減速していることを知らず知らずのうちに見落としています。

重心を持ち上げないように調整するのが最適値

では、この無駄な時間を無くすにはどうすれば良いでしょうか。足裏が地面から離れるのが問題なのであるから、離れないようにすれば良いのです。重心を持ち上げると、どこかのタイミングで、足裏が地面から離れるときが来るでしょう。ということは、重心を持ち上げてはなりません。重心を持ち上げた刹那に、その分の位置エネルギーを運動エネルギーに変換すれば良いです。さらにわかりやすく言うなら、重心を持ち上げることとエネルギー変換を同時に行うのです。そうすれば、重心が持ち上がることなく、運動エネルギーだけが増加していきます。そして、この状態を維持すれば、脚が地面に届かなくなることがないので、エネルギー変換を継続して行うことが可能です。

それでは、単位時間あたりにどれだけの位置エネルギーを運動エネルギーに変換することができるかという話になります。以下の3つに場合分けされます。なお、単位時間あたりのエネルギー量を仕事率と呼びます。定量的な議論は、次の記事で行います。

a) 筋力の仕事率(重心を持ち上げる) = 運動エネルギーへ変換される仕事率

→重心が持ち上がらずに、運動エネルギーが増加(水平方向に加速)します。重心にかかる重力と筋力の反作用の合成力が地面と平行になっています。

b) 筋力の仕事率(重心を持ち上げる) > 運動エネルギーへ変換される仕事率

→重心が持ち上がり、脚が地面から離れてしまい、効率を損ねます。重心にかかる重力と筋力の反作用の合成力が地面に対して上向きになっています。

c) 筋力の仕事率(重心を持ち上げる) < 運動エネルギーへ変換される仕事率

→筋力の仕事に対して、運動エネルギーへの変換が速すぎると、重心が低下していき、転倒します。図は筋力が仕事をせず、身体が転倒するだけの場合を示しています。重心にかかる重力と筋力の反作用の合成力が地面に対して下向きになっています。

言うまでもなく、最適値はa)です。一方で、現実のランナーの多くはb)になっています。特に一般ランナーは左辺が右辺よりも明らかに大きいため、重心が持ち上がり、脚が離地し、減速します。つまり、b)をa)に近づけていくことが効率を最大化することです。このようにランニング中に、重心を持ち上げる筋力には最適値が存在するのです。身体の傾きθが一定であるという条件においては、(推進力と走行抵抗と釣り合わせるという意味で)スピードを一定にして筋力を最小化することです。一方で、最大筋力が一定であるという条件においては、(推進力と走行抵抗と釣り合わせるという意味で)身体の傾きθを大きくしてスピードを最大化することです。つまり、この考え方は長距離走でも短距離走でも通用するということです。

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