遂に滞空時間を短縮!長距離走における効率が改善
いよいよ滞空時間それ自体を短くしてみましょう。滞空時間を短くするとは、重力ランニングにおいてどのようなことを意味するのかを確認しておきます。
従来の走り、通称筋肉走りでは、一歩を前方斜め上向きの跳躍と捉えます。つまり、脚で重心を持ち上げ、そのままの勢いで重心が上昇を続けるため、地面が脚から離れます。筋肉走りは跳躍の連続です。強く地面を蹴るほどに、速度が大きくなるとともに、滞空時間が長くなります。速く走っている人は滞空時間も長くなります。というのは全て間違いです。今回はこれを証明します。
- 滞空時間を短くすると、ランニング中の仕事自体が減少する上に、効率も向上するため、長距離走には圧倒的に有利である。
滞空時間とは何か
重力ランニングでは、滞空とは、重心が水平方向に移動しているときに、純粋に両脚が地面から離れていることを言います。したがって、滞空中は必ず、重心が自由落下しているのです。両足が離地しているときに、重心が上昇することはありません。重心が自由落下しているのですから、脚を着くかどうかは、ただ脚を地面まで伸ばすかどうかに拠っています。別の言い方をすれば、滞空中に脚を身体の前に引き戻した後は、脚を着くかどうかは自分で決められるのです。よって、当然のことながら、速く足を引き戻すほど、早く脚を着くことができます。
重量ランニングにおいて滞空時間を短くするとは、ランニング中に離地した脚を速く引き戻して接地するまでの時間を短くすることです。接地脚に着目するのではなく、遊脚に着目することがポイントです。
滞空時間の影響
今まで、滞空時間を0.2秒に固定していました。現実に、0.2秒の滞空時間で走っている人はいらっしゃいますが、0.2秒は長すぎると考えます。私は、脚が離地した瞬間に、逆脚を接地するイメージで走っています。滞空時間を0.2秒、0.18秒、0.16秒に変化させて計算してみました。
身体の傾きθの範囲:0°から25°重心の高さhの初期値:1.1 m
走行距離:100 m
滞空時間/s | 0.2 | 0.18 | 0.16 |
---|---|---|---|
歩数 | 69 | 74 | 79 |
経過時間t/s | 22.5 | 22.4 | 22.3 |
ピッチ/[歩/min] | 197 | 211 | 228 |
速度V/[min/km] | 3:27 | 3:26 | 3:24 |
水平方向の仕事Wh/J | 7014 | 7133 | 7242 |
垂直方向の仕事Wv/J | 7837 | 6815 | 5753 |
合計の仕事W/J | 14851 | 13948 | 12996 |
Whの割合/% | 47.2 | 51.1 | 55.7 |
巡航速度がわずかながら、増加しています。滞空時間を短くすると速度が上がることに違和感を覚えた人もいるかも知れません。しかし、これは物理的には当然の帰結です。接地中は加速し、滞空中は減速する、という原理から導かれます。
ピッチと歩数は増加します。滞空時間が短くなったのですから、これはわかりやすいと思います。ただし、滞空時間が1.16秒のとき、ピッチが228歩/minにまで増加していますから、やや現実離れしています。この点については、後続の記事で議論します。
特筆すべきは、垂直方向の仕事Wvです。7837Jから5753Jへと大きく減少したことです。これは、重心を持ち上げる仕事が減少しているという意味です。ランニングにおいて、重心を持ち上げる仕事というのは完全に不毛な努力ですから、減少するほど効率が高まっているということです。また、100mを走るのに要した全体の仕事も14851Jから12996Jへと減少しています。滞空時間0.2秒のときには、Whの割合は47.2%でした。半分以上の仕事が不毛な努力に費やされているのです。滞空時間0.16秒になると、Whの割合は55.7%になります。それでも、9分の4が無駄になっているのです。我々がやりたいことは前に進むことですから、もっと効率を上げたいところです。それでも、滞空時間を短くすれば、ランニング中の仕事自体が減り、効率も良くなっているのですから、長距離走においては圧倒的に有利です。
重心の垂直方向の移動
走行中の重心の高さの変化をグラフで表してみました。100m地点を通過する一歩を接地した瞬間を0mとしています。そこから、5mの間の重心の動きです。0m地点で重心の高さhが滞空時間0.20秒のときに最も小さいのは、滞空時間が長いほど自由落下するからです。ここから、身体を0°から25°へ傾ける間に重心の高さhを回復します。その回復が急であるほど、仕事率が大きい、つまり、筋力を発揮することを意味します。身体の傾きθが25°において高さhが1.1mに回復します。そこで、後足を離地し、滞空区間に入ります。すると、重心は自由落下し始めます。滞空時間が長いほど、放物線を描く区間が長くなり、重心の高さhも小さくなるのです。しかし、その分、前方へ進むため、ストライドは大きくなります。滞空時間の変化は、巡航速度に与える影響はわずかでしたので、ストライドが大きいと効率が低下し、ピッチが大きいと効率が向上すると言って良いでしょう。
それならば、滞空時間を短くすることだけを考えれば良い、と言われれば、それは間違いではないのですが、既にお分かりの通り、滞空時間を短くするためにはピッチを大きくしなければならないという壁があります。