百聞は一見に如かず:重力ランニングの正しさをアニメーションで実感
1サイクルで完結するシミュレーションを、速度を変えて実施しました。その結果、このシミュレーション方法は一定の検証を経たと考えています。しかし、このシミュレーションの結果、現れて来たものが具体的にどんなランニングであるかはわからないと思います。シミュレーションで計算されているのは、身体重心と脚の重心と接地点の移動だけです。ここに、膝関節の存在などは考慮されていません。今まで行ってきたのは、人間の身体の仕組みを離れた、より上位の概念としての二足歩行のシミュレーションでした。例え、身体重心と脚の重心と接地点だけであったとしても、これらが実際に動いているのを見るのと、見ないのでは、全く違います。そこで、今回は、これまでのシミュレーションの結果をアニメーションにしてみました。
- これまでのシミュレーション結果を元に、身体重心と接地点の動きをアニメーションで表現した。
- 重力ランニングは、現実の世界におけるエリートランナーの走りと一致するという印象を得た。
アニメーション化の方法
例によって、この節で記載することはランニングと直接関係がありませんので、興味の無い方は次の節へ進んでください。
プログラムの概要
プラットフォームにはSCRATCHを用いました。複数のオブジェクトを作り、同時に座標を動かしていくプログラムを最も簡単に実現できるからです。アニメーション上に登場させたのは、身体重心と2つの接地点です。これら3つのオブジェクトを動かすための座標は0.01秒刻みで用意しました。座標の計算は全てEXCEL上で行いました。その結果をCSVファイルとして出力し、SCRATCH上へリスト(一次元の配列)として読み込みました。リストは身体重心と接地点で2つ用意しました。
今回、平均速度Vが5.0 m/sの結果を使いましたが、このときの1歩に要する時間が0.25秒でした。プログラム上は2歩(0.50秒)で1サイクルとし、これを繰り返すことにしました。0.01秒ごとに座標を用意すると、各リスト(身体重心と接地点)内の値はそれぞれ50個となります。右足の接地点と左足の接地点については、リストを半分(25個)ずらして値(座標)を取得し、オブジェクトを表示しました。
座標の考え方
身体重心のy座標は地面の高さを0としました。x座標は画面左端から出発し、右端に到達したら、左端に戻るものとしました。
接地点のx座標の原点として身体座標のx座標を採用しました。つまり、身体座標が左右に動けば、これに合わせて接地点も左右に動くということです。一方で、接地点のy座標の原点は地面を基準にしています。つまり、身体座標が上限に動くことは関係なく、地面との関係性で座標を定義してあります。
アニメーションによりわかること
できあがったアニメーションを見てみましょう。前回の記事の5 m/sのときのデータを使用しています。ピンクの円が身体重心、ブルーと黄色の円がそれぞれ右足、左足の接地点を表しています。接地点は接地している間は緑色になります。動画の中には人影はありませんが、画像のように人の鳩尾辺りにピンクの円があり、右足と左足にそれぞれブルーと黄色の円が位置していると想像して見てください。
身体重心(ピンクの円)の上下動があることから、意外にも自然なランニングに感じました。5 m/sは、1キロ3分20秒の速度ですから、かなりの速さです。この速度においては、滞空は必須であり、滞空するのであれば身体重心の上下動は避けられないのです。この事実がきちんと表現されています。
また、シミュレーション上は足が接地するのは重心の真下です。しかし、着地時の衝撃を和らげるため、足は接地前に予め地面すれすれに位置しており、そこから、後方に向かって加速しながら、実際に接地します。この過程において、傍目には足が重心よりも前方に接地しているように見えます。現実の世界の厳密に接するか接しないかの議論においては、重心よりも前方の地面に足が触れているのかも知れませんが、接地が重心の直下であっても前方に足を着いているように見えるというのは、新しい発見です。
重心よりも前方に接地しているように見えるため、それで良いのだと理解してしまうのでしょう。しかし、現実のエリートランナーは接地の直前に脚を引き、接地点を重心の直下(あるいは後方)に持ってきているのです。この辺りは、エリートランナーの走りを良く良く観察したとしても、視覚情報からはわからないことなのではないかと思います。
接地しているように見えるが接地していない
実際に接地している
全体としては、このアニメーションを見て、エリートランナーの走りが重力ランニングと良く一致するものであると思いました。つまり、これまで私が積み重ねてきた物理的な考察は既に現実世界で実施されているものに過ぎないのです。エリートランナーはその定義の通り、極めて少数のハイパフォーマンスを示すランナーです。彼らは、どんな経緯を経たとしても、結果として重力ランニングという物理的に合理性のある走り方を習得したのです。
では、重力ランニングの理論を改めて示すことは無意味なのでしょうか。言うまでもなく、答えはNoです。確かに、重力ランニングの理論を学んだところでエリートランナーの記録はあまり向上しないでしょう。何故なら、重力ランニングを既に体現しているからです。それは織り込み済です。このブログの存在意義は、私のようにランニングについて誤った物理的認識を持った一般ランナーがエリートランナーに近づくための手助けをすることです。
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