着地位置の違いは目に見えるのか?動画で確認してみよう!
今回は直接的に以下の記事の続編です。
この記事では、着地位置は重心のほぼ直下であることが最適であることを示しました。着地位置の重心の直下からのズレをオフセットと命名し、オフセットの影響を数値とグラフで示しました。
数字の示した結果について解説しましたが、やはり、目に見える動きにしてみないとわからないのではないでしょうか。そこで、オフセットが0 mの場合と、前方または後方にずれた場合のアニメーションを作ってみました。
平均速度Vを5.0 m/sとして、オフセットが前方に3cm(-3cmと定義)した場合と、後方に5cm(+5cmと定義)した場合で比較してみました。
- ランニング中のオフセットのズレを他者が目視で判別することは不可能。オフセットのズレにより起こるランニング動作に対する印象の差を感じ取るしかない。
- オフセットのズレを他人が指摘することもない上に、自分でも感得することはできないため、オフセットのズレによる非効率性に気が付くことは難しい。それゆえに、重力ランニングの理論を学ぶことは重要である。
基準(オフセットはゼロ)
早速、見てみましょう。基準となるのは以下の記事でも最高速度として位置付けた5.0 m/sのランニングです。着地位置は重心の直下(オフセットはゼロ)です。なお、本記事のため、新たに倍のフレーム数でアニメーションを作りました。今回は、これが基準ですので、これについて評価せずに、ありのままに頭に焼き付けてください。
オフセットが前方に3cmずれた場合
正直なところ、パッと見でわかるほどの違いはないと思います。そこはかとなく軽やかさが失われたかな、と感じる程度です。しかし、着地の瞬間に良く良く着目してみると、基準のアニメーションに比較して、足(接地点)の引き付けが弱いのです。オフセットがゼロの場合は、足が地面すれすれに来てからなかなか接地せず、後方に動いてから接地します。
一方、オフセットが前方に3cmずれた場合には、この動きがないため、素直に足が接地するという印象です。私自身の中に染み付いているランニングのイメージは、むしろ、こちらの方が近いのだと思います。
わずか3cmだけ、オフセットを前方にずらすことにより、身体重心が接地点の上に乗る時間を作ることで、身体の安全を確保させているのだと考えます。
安全のためには、不測の事態に対応して速やかに、減速および停止できることは必須です。どんなに速い自動車でも、ブレーキを搭載していない自動車に乗りたくはないですよね。それと同じで、本能的に、あるいは、直感的に、すぐに止まれる余地を残しているのです。
すなわち、特に意識しなければ安全のために、このような状態になるのが普通(高確率で起こるの意)なのではないでしょうか。
しかし、この余地を残すことで、非効率さが生まれてしまいます。前方に着地することにより、どうしてもブレーキがかかりますので、全体の仕事量Wは大きく増加します。264 kJ/kmに対して277 kJ/kmという、4.9%の増加率はどのくらいの重みであるかは実感できると思います。
別の表現をするならば、4.5 m/sのランニングに対して、5.0 m/sのランニングの全体の仕事量Wが3.9%増です。速度の変化に換算した場合、4.9%の仕事量の増加がどれだけ競技力に響くかがわかります。
ランニングという高速の動作中のわずか3cmのズレが、これだけの非効率を引き起こすことを考えると、ランニングが精密動作の繰り返しであるとわかります。
- オフセットのズレは、他人の動きであっても、厳しく注視しなければわからない。
- 特に意識していなければ、安全確保のため、前方にオフセットがズレる。
- 前方へのオフセットのズレは、ランニングにおける仕事量を大きく増加させる。
上記は明らかに重要な示唆を含んでいます。上記3点から導かれる結論は、ほとんどの人は非効率的なランニングを行なっているが、その事実には気が付けない、ということです。私自身もまさしく、この結論があてはまる人でした。
オフセットが後方に5cmずれた場合
次に、オフセットが後方にずれた場合を見てみましょう。
基準に比較してみると僅かではありますが、ストライドが小さくなり、ぴょんぴょんと跳ねている方向にシフトしている気がします。
オフセットが前方にずれるとブレーキがかかります。そうであるならば、後方にずれることには、一切の問題がないと考えてしまいます。後方に着地しているのであれば、身体重心を押すことしかできないのですから、非効率は生まれようがない、つまり、全体の仕事量Wは少なくとも増加しないだろうというのが人間の頭の中で考えたときの予想です。
しかし、実際にシミュレーションを実施してみると、ストライドが小さくなり、ピッチが増加します。その一方で、滞空時間が長くなります。これを腰高のフォームと表現しました。
身体重心の後方に着地することが何故、腰高のフォームにつながるのかをもう少し詳しく解説しましょう。
後方に着地すると、着地の瞬間の地面反力の水平成分が推進力になるので確かにブレーキは掛からず、むしろ、加速します。ただ、このときに十分に身体重心を持ち上げないと、ランニングを継続できません。つまり、ランニングを継続するためには着地の際に上向きの地面反力を一定量、獲得しないといけないのです。
重心の直下に着地する場合には、直下に着地して、例えば、後方5cmに接地点が移動するまでに上向きの地面反力を受けています。身体の傾きで言えば、0°から3.1°の範囲です。この間は、角度が小さいため、推進力ではなく、主として重心高さの回復力(垂直方向上向きの力)を獲得します。次に、角度が大きい領域で推進力を得るのです。
一方、着地が身体重心よりも後方にズレている(初めから3°の傾きである)場合には、重心高さの回復力を得るのに、短い接地時間しかありません。そこで、より強く地面を押す必要があります。筋力が不十分な場合は、身体重心の高さを回復するのに時間がかかるため、身体の傾きが大きくなり、推進力(水平方向前向きの力)がさらに大きくなります。こうして、身体の重心の高さを回復させることができずに、転倒することになります。
また、短い時間で身体重心を持ち上げるため、身体重心の垂直方向上向きの速度が大きくなり、その結果、滞空時間が長くなるのです。
また、原理的に、身体重心の直下から5cmのストライドを捨てているので、その分だけストライドは短くなります。加えて、上記要請により、接地時間が短くなるため、十分に推進力を得る前に離地することになります。こうしてストライドが短くなります。
まとめ
オフセットが僅かに前後にズレただけで大きな違いが生まれることがわかりました。しかし、外見上は大きな差はありません。以下はそれぞれ着地の瞬間を抜き出した画像です。(5ms刻みのアニメーションなので、厳密に着地の瞬間を捉えてはいません。ゆえに、基準の場合でも、接地点の中心が身体重心の直下には来ていません。)これらの画像で示されるように、着地の瞬間の位置に違いがあると言ってもごく僅かな差しかありません。ランニングの動きから、オフセットを判別するのは困難です。判別するとしたら、むしろ、滞空時の上下動と滞空時間率の違いに由来する印象の違いを手掛かりにするしかありません。しかし、背景にある理論が理解されていれば、微かな印象の違いを具体的な違いとして認識することができます。