マカウ選手に学ぶ!重力ランニングにおける接地時間の可変性
前回の記事では、「滞空走法」と「接地走法」の2つの走法があり得ることを説明しました。今回は、それぞれの走法をアニメーションとして再現してみました。
滞空走法
こちらは従来の「重力ランニング」のシミュレーション結果をもとにした走法です。滞空時間が接地時間より長くなっており、重力ランニングの原則に忠実に従っています。全体の仕事量Wを最小化するようにシンプルに設計されたモデルです。着地は身体の重心の真下で行われます。これにより、着地の瞬間に発生する力の向きは、まず垂直上向きに始まり、徐々に前方に傾いていきます。アニメーション中に表示される黒い直線は、地面反力の向きと大きさを示しています。着地の瞬間にブレーキがかかっていないため、無駄な仕事が発生していません。ただし、着地時にかかる力の大きさは、接地走法よりも大きくなります。
接地走法
このモデルは、パトリック・マカウ選手の走りを参考に構築したシミュレーションです。こちらでは、接地時間が滞空時間より長くなっています。基本的には重力ランニングの原則に従っていますが、マカウ選手の走りに近づけるため、着地点を身体の前方に意図的にずらしてあります。そのため、全体の仕事量Wは最小化されていません。着地の瞬間に発生する力は、垂直方向に対してやや後ろ向きに傾いています。力の大きさは滞空走法と比較して小さく、そのため衝撃が緩和され、身体へのダメージも少なくなると考えられます。
両者の比較
滞空走法と接地走法の両方を重ねたアニメーションを作成しました。滞空走法はモノトーンで表示されています。2つを同時に見ることで、違いが明確になります。
最も顕著な違いは、重心の位置です。接地走法では脚を大きく前後に開くため、重心の位置が低くなります。また、接地走法はストライドがやや小さく、ピッチ(歩数)は多くなります。さらに、接地走法のほうが足が地面に接している時間が長いことにも注目してください。
どちらが有利なのか?
今回のアニメーションによって、滞空走法と接地走法の違いを視覚的に捉えることができました。
「接地していなければ加速できない」という原則は間違いありません。一見すると、接地している時間が長い方が有利に思えますが、それだけでは正しい判断はできません。実際には「接地しており、かつ、その接地点が身体の重心より後方にある場合にのみ、前方への加速が可能になる」ため、単純に接地時間が長い方が有利とは言い切れません。
滞空走法と接地走法、どちらを選ぶべきか?
このアニメーションと検討を通じて、私自身も「どちらが重力ランニングとして追求すべきなのか?」という点で迷いました。そこで、改めて重力ランニングの3つの原則に立ち返ります。
1. 重力主導の原則
走りの主な推進力は重力から得る、という考えです。この原則はシミュレーション内にしっかりと組み込まれています。滞空走法でも接地走法でも、重力に逆らって跳ねるような筋力の使い方はしていません。筋力は、あくまで重心の高さを回復するための最低限の使用にとどまっています。
2. 負荷分散の原則
身体全体を使って負荷を分散する、という考えです。これまで私は「仕事量Wの最小化」を最適化の主眼とし、それが「筋力の最小化」と同義だと無意識に考えていました。しかしこれは正確ではありません。正しくは、「仕事量の最小化=筋肉が行う仕事の最小化」です。筋肉への負荷には主に2種類あります:
- 仕事量(単位:J)
- 力の大きさ(単位:N)
仕事量が多ければ疲労が蓄積し、力の大きさが大きすぎれば、そもそも出力自体が不可能です。この2つの制約に対して、いかに余裕を持たせるかが「負荷分散」の本質です。前回の記事でも述べたように、これらの制約の厳しさは個人差があります。したがって、現時点では滞空走法・接地走法のいずれも、この原則を満たしていると言えます。
3. 重心作用線の原則
筋力が地面に対して発揮される際の作用線は、常に身体の重心を通らなければなりません。作用線が重心を外れると、身体が回転してしまい、無駄なエネルギーを使うことになります。これもシミュレーションで考慮されています。
結論
以上の3つの原則をもとに考えると、どちらの走法も重力ランニングの理念に則っていることがわかります。最終的には、「自分の身体に合った走法」こそが追求すべきスタイルであると結論づけました。私は持久型の体質であるため、マカウ選手を模範とした「接地走法」を選びます。今後は、着地の滑らかさを重視し、前方着地であっても気にしないように心がけていきます。