重力ランニングの原則を修正、目指すものをより明確に。

マカウ選手の走りは重力ランニングの定義を満たしていると、以下の記事で書きました。確かに、3つの原則を満たしているのです。しかし、マカウ選手の走りは、重力ランニングのシミュレーションで得られた解から、着地点を前方にずらしたものでした。その結果、着地の衝撃を緩和するというメリットが生じるため、優劣をつけられない関係にありました。

重力ランニングの原点

この結論自体は、今も変わっていません。ただし、改めて自分が「これだ」と思った走り方を思い返してみると、前方着地の走り方とは違うのです。私のイメージする走りは、着地の瞬間、体重が足裏からはみ出し、そのまま逆足へ乗り込む動作が連続するものです。この一連の動作を高速で繰り返す。転倒ギリギリで走りを継続する。言い換えれば、それが私のイメージでした。甲野善紀さんの言葉で表現すると、「居着かない走り」なのです。

一方、着地を前方にすると、乗り込む動作が発生するのです。そして、このときに全身を駆使して着地の衝撃を最小化するのが鍵です。それでも、いずれにしても居着くのです。さらに、マカウ選手の走りは、上下動の無駄を省くために加減速が発生し、その結果、仕事は増えてしまう走りでした。したがって、真に無駄を排した走りは、「居着かない走り」なのです。

このように考え、重力ランニングの定義を狭くします。「居着かない走り」のみを含めることにします。

追加の条件

3つの原則を考えたときは、まだ理論の構築を始めたばかりでした。構築するための方針が3つの原則でした。ところが、理論が固まってきた結果、その中にまだ広がりがあることがわかったのです。方程式の解は1つにならず、直線であったのです。つまり、条件を加えなければ、解が定まりません。では、どんな条件を追加すれば良いのでしょうか。

結論から言えば、無駄な仕事の最小化です。ここでの無駄は、走動作の中で相殺する力を発揮することです。最たる無駄は上下動です。前進するために身体を持ち上げ、その後、着地するのは無駄です。この点については、最小化することに異議はないでしょう。もう一つは、加速と減速です。一度巡航速度に到達したならば、理想は等速直線運動です。加速と減速は全く不要なのです。したがって、これも最小化すべきです。

ここで関連してくるのが、負荷分散の原則に書いた内容です。これは筋出力の最小化を目指しているように聞こえますし、実際にそのとおりだったのです。この原則に拠れば、着地の瞬間の筋力の最大値Fmaxを低減する方法を選ぶことは正しいのです。ただし、そうすると、無駄な仕事を最小化する方が優先であると定義しなければなりません。無駄な仕事はなくした後で、それを実現する方法としての「負荷分散の原則」ということです。

4つの原則

そのため、原則の優先順位というものも記しておく必要があります。そうしたときに、4つの原則は以下の優先順位で適用されるべきものとなります。

重力主導の原則

重力ランニングの最も根源的な原則です。従来のランニングの概念は、全身の筋力を使って、身体を運ぶというものでした。しかし、重力ランニングにおいては、重力こそが主たる力であり、筋力は重力を利用するための二次的な作用であると考えています。たとえ筋力が重力と同時に作用しているように見えたとしても、ミクロに見れば、重力による位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、その位置エネルギーを筋力で回復させているプロセスと理解します。

重心作用線の原則

少しわかりにくいかもしれません。文字で書くと、重力ランニングにおける筋力の作用線は必ず重心を通り、重力と反対向きに作用する、ということです。重力ランニングにおける筋力の役割は、重心の位置エネルギーを回復させることです。したがって、この原則が導かれます。
真っすぐに立っている状態であれば、身体の軸は垂直ですから、垂直方向に上向きに作用します。身体を前方に角度θで傾ければ、作用線が同様に傾きますが、必ず重心を通り、作用する方向は重力と反対ですから、斜め上向きとなります。

仕事最小化の原則

走動作の中で相殺される仕事を最小化します。上下動はその最たる例です。前進するという目的に照らしたとき、身体重心を上昇させ、その後着地するのは無駄です。また、加速と減速も相殺される仕事です。一度巡航速度に到達したならば、理想は等速直線運動です。これらに代表されるように、無駄な仕事を除去することを追求します。

負荷分散の原則

重力を利用するとしても、それを利用するためには筋力を使わなければなりません。しかし、人間の筋力には限りがあります。限りある筋力をできるだけ効率的に使います。重力は地球上で常に安定しています。重力加速度は一定と言ってよいでしょう。そうであれば、筋力で行うべきことは、できるだけ多くの位置エネルギーを稼ぐことです。その際には、筋出力をできるだけ平準化し、ピークを低くするべきと考えます。
また、複数の筋肉や関節の関係においては、1つの筋肉や関節への負荷の集中を避け、できるだけ均等に使うべきです。ランニングという動作においても、脚だけでなく、腕は当然のこと、胴体の深層筋まで含めて、全身をくまなく使い、負荷を分散します。必然的に、身体の右半身と左半身は対称の動きとなるのが理想です。

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