ハムストリングスを活用したい?その秘訣を物理的に解明!

最近はランニングの際に、意識的にハムストリングスを使うようにしています。
ランニングに関する書籍でも「ハムストリングスを意識して走る」と書かれていることは珍しくありません。

もちろん、意識することで効果はあると思います。しかし、意識するだけで走りそのものをハムストリング主導に移行できるかといえば、そう簡単ではありません。実際、私は約20年前にハムストリングスを強く意識して走ろうと試みましたが、結果的に定着しませんでした。当時は「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」を読み、実際にトレーニングもしました。確かにハムストリングスに力が入る感覚はあったのですが、大腿四頭筋の力を抜くことができず、結局は大腿四頭筋主導のままになってしまったのです。

そのとき私は「大腿四頭筋にはどうしても力が入ってしまうものだ」と結論づけざるを得ませんでした。

20年後の再挑戦

2025年になり、再び「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」と出会いました。そして改めてハムストリングス主導の走りに挑戦することにしました。20年前と異なるのは、重力ランニングの理論を理解し、今では「蹴らない走り」がある程度身についているという点です。この土台があるからこそ、再び挑戦してみようという気持ちになれたのです。

2つの主導スタイルの不思議

同じ「走る」という行為でありながら、大腿四頭筋主導とハムストリングス主導という2つのスタイルが存在するのは、不思議に思いませんか。腿の前と裏にある筋肉は、一般的には逆の作用を持っているように思われます。なぜ、どちらの主導も成立するのか──。私はそこに物理的な答えを見つけたので、以下で解説していきます。

基本となる「立つ」という状態

まず「立つ」という最もシンプルな状態から考えます。足から頭まで身体を真っ直ぐに積み重ねると、人は筋出力をほとんど必要とせずに立つことができます。積み木を垂直に積み重ねれば倒れないのと同じです。

それを表したのが以下の図です。黄色の部分が下腿、水色の部分が腿、黒色の部分が胴体を表しています。胴体の中央にある円形は身体重心の位置を示しています。

理論上は完全に脱力状態で立てますが、現実には風や微妙な揺れがあり、常に小さな筋出力でバランスを取っています。ただ、この解説では「理論的に完全に垂直であれば筋力は不要」という前提で話を進めます。

身体重心を下げる方法1:膝を前に出す(大腿四頭筋主導)

しかし、身体が完全に垂直では運動の余地がありません。そこで身体重心を下げる必要があります。最初の方法は「膝を前に出す」ことです。

このとき、身体の重量は胴体の中心に集まっていると考えます。膝が前方に出ているため、膝関節がこれ以上屈曲しないように大腿四頭筋が働き、身体重心を支えます。股関節は身体重心の直下にあるため、前後に動く必要はなく、ほぼフリーな状態です。

この姿勢こそ、大腿四頭筋主導の基本姿勢です。日本語でフットワークの練習の際に「腰を落とせ」と言われたときに、思い浮かべるのは、この姿勢ではないでしょうか。

走る場合は、着地の瞬間に基本姿勢になり、その後、身体全体を前に傾ければよいのです。身体重心作用線の原則に従い、身体重心と接地点を結ぶ線上に力が作用します。膝関節を伸展させる大腿四頭筋が地面を押し、身体重心を持ち上げる役割を果たします。

身体重心を下げる方法2:股関節を後ろに引く(ハムストリングス主導)

次に「股関節を後方に引く」方法を考えます。このときは重力が股関節を屈曲させる方向に働くため、それに抗して股関節を伸展させる筋力が必要です。その役割を担うのがハムストリングスです。

一方、膝関節は身体重心の直下にあるため、前後に動く必要はありません。大腿四頭筋はほとんど働かなくて良いのです。これがハムストリングス主導の基本姿勢になります。

走るときは、この基本姿勢を保ったまま身体全体を前方に傾けます。以下の図を見ると、胴体がかなり前方に傾いています。これは見た目のわかりやすさのため、大げさに関節を屈曲させてあるからですが、実際にはもっと小さな角度です。注意深く見ても、先ほどの「膝を前に出す姿勢」と区別するのは難しいでしょう。

ただし注意が必要です。ハムストリングスは股関節と膝関節をまたぐ二関節筋であるため、収縮すると膝も屈曲してしまいます。そのため、膝を安定させるには大腿四頭筋も補助的に働きます。

関節の配置を変えることで主導筋が変わる

ここまでの説明で分かる通り、大腿四頭筋に力が入ってしまう人たちは無意識のうちに「膝を前に出して身体重心を下げる姿勢」を取っています。

ハムストリングス主導に移行するためには、関節の配置そのものを変えることが必須です。股関節を後方に引いて身体重心を下げることで、自然と裏側の筋肉が主導になります。

ポイントは「垂直に保つべきは胴体ではなく下腿」であるということです。垂直な下腿の延長線上に身体重心を乗せ、必要に応じて下げることで、走りのバランスを変えることができます。

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