肩甲骨が回れば、アスリートの才能が爆発的に開花する!
高岡 英夫 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784862557575
評価
項目 | スコア |
---|---|
重力ランニングとの親和性 | ★★★★☆ 4点 |
理論の完成度 | ★★★★★ 5点 |
読み物としての面白さ | ★★★★☆ 4点 |
感想・見解
ベスト体という身体意識
高岡英夫さんの本です。
肩甲骨ではなく、「ベスト体」と呼ばれる部分が主役です。ざっくりとした説明では、男性のレスリング選手が着ている上着から見えている腕と肩、そして胴体の一部にあたる領域です。腕と肩周りを一つの部位として捉え、胴体から切り離して動かします。とはいえ、上着の縁に沿って関節があるわけではないので、あくまで概念上の話です。
概念上の話ではあるものの、現実の動きに影響を及ぼすと考えます。肩甲骨が動かなくなる以前に、肩甲骨が身体意識上の概念から消えてしまい、胴体が一枚板のようになってしまう段階があります。こうして動かさないままでいると、いざ動かせと言われても動かせなくなるわけです。肩甲骨が肋骨とは別に存在していると意識できれば、肩甲骨を動かせるようになるのは理解できます。それが、著者の前著『肩甲骨が立てば、パフォーマンスは上がる!』の主旨でした。
しかし、それだけでは不十分だと著者は言います。「ベスト体を動かす」というイメージがあって初めて、肩甲骨が十分に動き始めるのです。肋骨にはある程度の柔軟性があり、また胸骨と肋骨の間には軟骨があるため、肋骨自体も動かせるそうです。とはいえ、ベスト体の境界に沿ってズレるように、ベスト体を現実に動かすことはできないのです。著者も「擬似関節を作る」と述べています。前著とは異なり、本書では肩甲骨そのものを動かすのではなく、肩甲骨を動かすための身体イメージを伝えているのです。
ベスト体の動きには、サイクル、ローター、パルト、スクリューの4種類があります。
それぞれの概要は以下の通りです。これらの動きを習得するためのメソッドが細かく記されており、本書の後半はその内容にほぼ半分を割いています。
- サイクル:自転車のペダルのように円を描くように、ベスト体の向きを変えずに動かす。前回転が「順サイクル」、後ろ回転が「逆サイクル」。
- ローター:ボクシングのフックを打つときの要領で、ベスト体を閉じるのが「順ローター」、開くのが「逆ローター」。
- パルト:ベスト体を前後にずらして動かす。
- スクリュー:ベスト体を、コークスクリューパンチを打つときの要領で捻り込むのが「順スクリュー」。

出典:高岡英夫『センター・体軸・正中線―自分の中の天才を呼びさます』(ベースボールマガジン社、2005年)p.142より図引用
20年前のベスト体
この本は今年に入って出版されたのですが、ベスト体の概念自体はすでに公開されていました。それも20年前、2005年7月にベースボールマガジン社から出版された『センター・体軸・正中線―自分の中の天才を呼びさます』という本の第3章が「ベスト」と題されていたのです。本書ほどの詳細な記述はないにせよ、ベストの概念は十分に開示されていました。ベストを活用することの効用が、イチロー選手やタイガー・ウッズ選手の写真を交えて説明されています。ただし、当時は高岡英夫氏がインタビューを受けるという形式であり、本書のような体系的な解説ではありませんでした。私はそのとき、ベストの実態を掴むことはできませんでしたが、「ベスト体を動かす」というイメージは概念として持ち続けていました。というのも、第4章で紹介されていた「ジンブレイド」という身体意識はすぐに理解できたからです。ジンブレイドは、4スタンス理論の研究においても重要な役割を果たしており、私は走るときには常に意識しています。
ランニングにおけるベスト体の応用
今年に入ってから、ランニング中に脚の入れ替えに同期して、良いタイミングで肩を後ろ回りに回転させると、着地が滑らかになることを思い出しました。この動きをさらに深掘りしようとする中で、腕だけでなく、ベスト体を動かすことを意識するようになりました。これは、ベスト体の「逆サイクル」と呼ばれる動きです。『肩甲骨が回れば…』と題されているので、本書であればランニング中に逆サイクルを行うことについて言及されているのではないかと思い、確認のために読むことにしたのです。
結果として、第5章第二項「スポーツにおけるローターの動き」において、ランニングとベスト体の関係について触れられていました。まず、順サイクルでも逆サイクルでもなく、「ローター」であるという点が意外でした。短距離走においては、腕を前後に振ることが理想とされている中で、実際には内旋(腕を身体の中心線に近づける動き)を加えることで、さらにパフォーマンスを向上させることができるとしています。これを実現していたのが、ウサイン・ボルト選手だったのです。一方、中長距離走では、腕振りのスタイルは世界レベルにおいても多様です。そもそも、前後だけに腕を振っている選手などほとんどおらず、高橋尚子さんに至っては、腕をほぼ横方向に振っているように見えます。ここでも、ベスト体のローターの動きを取り入れることで、改善が可能であると述べられています。
ともかく、著者が考えるベスト体のランニングへの適用と、私の取り組んでいる動きが異なっているということは確認できました。本書を購入した目的は、無事に果たされました。