ピッチを鍛えて伸びるマラソン練習法: 「ピッチ向上 × 疲労抜きJOG = 自己ベスト更新」の法則

田中 猛雄, 大竹 基之 著

出典:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%94%E3%83%83%E3%83%81%E3%82%92%E9%8D%9B%E3%81%88%E3%81%A6%E4%BC%B8%E3%81%B3%E3%82%8B%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%BD%E3%83%B3%E7%B7%B4%E7%BF%92%E6%B3%95-%E3%80%8C%E3%83%94%E3%83%83%E3%83%81%E5%90%91%E4%B8%8A-%C3%97-%E7%96%B2%E5%8A%B4%E6%8A%9C%E3%81%8D%EF%BC%AA%EF%BC%AF%EF%BC%A7-%E8%87%AA%E5%B7%B1%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E6%9B%B4%E6%96%B0%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87-ebook/dp/B0993GL2H3

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★☆ 4点
理論の完成度★★★☆☆ 3点
読み物としての面白さ★★★★☆ 4点

感想・見解

歳を取ったら、ストライドを伸ばすのではなく、ピッチを上げるべきだという主張です。

ランニングスピードはストライドとピッチの積であるから、ピッチが上がればスピードが上がるという論理で、ピッチを上げるトレーニングについて細かく解説してくれます。データを大量に測定し、そこから、成績を示すので、大変に説得力があります。著者の二人は、市民ランナーとは言え、猛者の部類です。二人が自分の体験を交えながら、実際の取り組みと結果を説明していくので、現にトレーニングに取り組んでいるランナーには、親しみやすい形式だと思います。

跳ぶことで故障につながるという観察結果から、マラソンを走るには、「スピードトレーニングだけでは疲労が溜まり、故障につながる。だから、疲労抜きJOGを行うと良い。」という発見が先にあります。理論は足りないですが、経験則で正しい結論に辿り着いています。したがって、目指しているランニングは、重力ランニングと同じものである確率が高いです。

しかしながら、スピード=ストライド×ピッチの等式の使い方がいけません。例によって、ストライドかピッチかの二者択一に陥り、歳を取ったら、ストライドを上げられないから、ピッチを上げるのだ、と考えます。すると、次には、ピッチを上げることが目的になってしまいます。ピッチが高いほど良いのだという論調で、全てが構成されていくのです。

ピッチの数が上がることが是であるということで、それが何故、記録更新につながるかの理屈は不要のようでした。音楽を聞いてそれに合わせる、という方法でも良いから、ピッチを高めていこうとします。

しかし、それで結果が出るのですから、その手法は間違っていないわけです。それほどまでに、一般的に人は地面を蹴って走っているため、ただ闇雲にピッチを上げようとする結果として、蹴らなくなることが、故障を防止することにつながるわけです。

初めは、それで良いと思います。しかし、ピッチが上がるのは結果であって、目的ではない、という点がわかっていないと、重力ランニングと重なっていた方向が、進むにつれて少しずつずれていきます。相関性のあるように見える2つの現象を見つけたとしても、それらの因果関係を正しく理解していなければ、その相関性を正しく利用することはできません。

例えば、NIKEのヴェイパーフライNEXT%を試す件では、反発力が上がったから接地時間が短くなるので、ピッチを上げられる、とはっきりと書いてあるのです。ピッチを上げることが目的になっていて、接地時間を短くすることの意味は考えていないのです。ピッチを上げることの意味は、ストライドを短くすることにより接地時間を長くすることです。人間は接地している間にのみ加速するので、結果として、巡航速度が大きくなります。つまり、接地時間を短くしてはならないのです。このような間違いは、頻繁に起こります。

ゆえに、ただ相関性のありそうに見える2つの現象を見つけるだけでは不十分なのです。あるトレーニングを試したときに、狙い通りの結果が得られた、としても、その間をつなぐ理論を注意深く構築するべきです。その途中で矛盾があるようだったら、単なる偶然だったのか、その理論が間違いであるかのいずれかです。

とは言え、明確にピッチに着目した、数少ないランニング本の1つです。ピッチを上げることを目指した結果、エネルギー効率が向上し、身体へのダメージが低減する、という実証として価値ある一冊です。

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