走り革命理論 今まで誰も教えてくれなかった「絶対に足が速くなる」テクニック

和田 賢一 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-1201188

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★☆☆ 3点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★★★☆ 4点

感想・見解

既にYouTubeで有名になられている方の著書です。あのウサイン・ボルト氏と一緒にトレーニングしたというのが謳い文句です。

https://www.youtube.com/channel/UCQN8LYY5hgOm7eYEz4YdwAQ

ランニングとスプリントは異なると書いています。長距離と短距離で走り方が違うのは、誰でも知っています。ただ、スプリントで結果が出せないのは、ランニングの延長線上の動きから抜け出せていないからだというのです。

ランニングのときは足を重心より前に着くという説明も、今のランニング(長距離走)をきちんと勉強していたら、出て来ません。引き立て役が一時代前に活躍していたものなのです。踵着地を推奨するランニング本はさすがに見かけなくなったと思います。今のランニングと、今のスプリントはどう違うのか、という議論が欲しいところです。

川本先生の教えと本質的には変わらず、教え方をブラッシュアップしてあるものです。例えば、接地の際に地面反力を得るときの動作をジャンプと呼ばず、ホップに変えたのは秀逸です。これで、かなり習得が早くなると思います。足首を固めたまま接地することで、着地後に遅滞無く地面反力を得るのです。つま先で地面を蹴るイメージを持っていると、足首を伸ばす動作が入り、脚の戻しが遅れるのですが、これを避ける上手い説明です。つま先で地面を蹴っている人たちがより速く走れるようになるのは間違いないでしょう。

川本先生の教えは、カール・ルイス氏の指導者である、トム・テレツ氏の教えですから、1984年のロサンゼルス五輪のときから存在していたわけです。本書はその当時の革命をわかりやすく現代にまで伝えてくれるものと位置づけられます。逆の言い方をするならば、未だに走り革命は一般ランナーにまで普及していないのです。

足首ロックに関する考察

しかし、足首ロックが最適であるかは疑問です。本書の項目の中で、この足首ロックに関する疑問が最大の論点です。つまり、ふくらはぎの筋肉はバネのように機能して、位置エネルギーの再利用が本当に可能なのか、ということです。

まず、ホッピングのことが思い出されました。子供の遊具である、あのホッピングです。ホッピングでジャンプを繰り返しているときは、足首は使いません。足首ではなく、膝関節と股関節の伸展によってジャンプします。まるで、足首の代わりにバネを使っているようです。着地のときにバネが圧縮し、ジャンプするとバネが伸展します。そのときに弾性エネルギーを解放します。これで、自分の脚力でジャンプしたときよりも、高く跳べるのかと問われれば、バネの弾性エネルギーが加わるため、理論的には可能です。着地時に散逸してしまうはずの弾性エネルギーは圧縮状態でバネに蓄えられます。それがバネの本質です。弾性エネルギーが解放されるタイミングで人間が上手くジャンプを行なえば、より高く跳べるわけです。

トランポリンも同じです。トランポリンに荷重がかかると、トランポリンの面が沈みます。このときは、トランポリンの面を支えるバネが伸びて弾性エネルギーを蓄えます。その後、荷重がなくなると元に戻ります。戻るときに、合わせてジャンプしないと、高く跳べません。

上記2つの例では、接地後の周期は、質量とバネ定数で決まります。任意の周期で動くことはできません。例えば、トランポリンに着地してから跳ねるまでの時間を少し長くしようとしたら、跳ねられなくなるのは想像だけでわかります。ホッピングも同じです。

では、スプリントではどうでしょうか。硬い地面の上で走るときは、あたかも足首がバネの役割を果たすと言います。人間が走る速度は連続的に変化します。このとき、接地してから離地するまでの時間、つまり、接地時間を任意に変化させることができます。同じ速度でも、接地時間を長くしたり、短くしたりできます。なぜでしょうか。私には、2つの考え方が思いつきました。

まず、人間は足首ロックのバネ定数を無意識に調整しているという考え方です。足首を固定しているつもりでも、接地時間を予測して、筋肉の張力を強めたり、弱めたりしている、ということです。

もう一つは、そもそも足首ロックはバネとして機能しているわけではなく、離地するときに出力が生じるのだ、という考え方が可能です。足首の筋力はバネのように弾性エネルギーを蓄積するのではない。むしろ、クッションとして機能しているだけだということです。

今まで論じてきた重力ランニングでは、明確に後者です。長距離走を前提にしており、接地したから離地するまでの時間に、ふくらはぎに弾性エネルギーが保存されているとは考えていません。着地の衝撃を和らげるクッションの機能を果たしつつも、アクチュエータとしての機能は意識的にオフにします。本書の定義するスプリントでも、同じだと考えます。100m走の巡航区間でも、ランナーの足は接地してから、離地するまでに間があります。また、加速していく中で接地時間は刻々と変化していきます。この考察だけでは、上記2つの考え方のいずれであるかは確定できませんが、ホッピングやトランポリンのような一定のバネ定数を持つバネでないことは確かです。

シューズのソールはバネではないのか?

ここで、シューズのソールをバネと見た場合、接地時間を変化できる事実をどう説明するのかという疑問が生じました。初心者向けのシューズはクッション性が高く、上級者向けのシューズは高反発であるのはどう説明すれば良いのでしょう。足首ロックは高反発性を再現しているのではないのでしょうか。

私自身、高反発のソールの方が速度を維持しやすいと実感しています。高反発ソールの方が、着地の衝撃がハッキリと伝わるのは確かです。ただし、ソールの弾性エネルギーによる反力が離地のタイミングまで保存されているとは感じません。ソールの上で体重を移動させて行くときに、抵抗が少ない気がします。つまり、クッション性が高い初心者向けのシューズでは、体重移動に伴い、地面が変形するのに近い状態を作りだしてしまいます。人間の足には硬い地面に対して、衝撃を吸収する仕組みはあるのです。それがふくらはぎです。さらに、別の仕組みを加えるのは、不要であるばかりか、エネルギーの無駄に繋がるわけです。

やはり、足首ロックは足首関節を稼働させることで起こる、切り返しの遅れを防ぐための手法と考えた方が良いと思いました。

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