ランニングリテラシー – 走って読んで再発見!

ランニング学会 編

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784469267211

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★☆☆ 3点
理論の完成度★★☆☆☆ 2点
読み物としての面白さ★★★☆☆ 3点

感想・見解

入門書という位置付けです。しかし、後半に行くに従い、細かい内容となります。トレーニングのやり方に加えて、シューズ、ウォームアップ、ケガ、食事など、ランニング全般をカバーしています。最近、走り始めた人がランニングコミュニティの常識を身につけるには、最適な本です。
久しぶりに紙の本を買ったのですが、私がこの本を読もうと思ったのは、第6章にフォームに関する数値があったからです。高橋尚子選手と野口みずき選手のランニングに関する詳細なデータ表(表6-1)が掲載されています。

高橋尚子選手はピッチ走法の代表例、野口みずき選手はストライド走法の代表例として示されています。ここで、私が着目したいのは、接地後の身体重心の低下です。高橋選手では、身体重心の上下動は5.39cmであり、接地後の身体重心の低下が3.42cmです。野口選手では、それぞれ5.94cmと2.77cmです。上下動自体は高橋選手の方が小さいのに、接地後の身体重心の低下は高橋選手の方が大きいのです。これは何を意味しているのでしょうか。高橋選手は、接地した後、身体への衝撃を緩和しながら身体を運ぶのに対して、野口選手は接地した後にすぐさま離地しようと強く地面を蹴っているのだと私は考えます。

また、高橋選手に関して、接地時間が0.167 sに対して、非支持時間(滞空時間)が0.108 sというリアルなデータが得られたのはありがたいです。わかりやすいように、滞空時間を0.1 sとするとき、速度 5 m/s(1キロ3分20秒)で、非支持距離(滞空距離)が50 cmです。一般ランナーの速度であれば滞空時間はさらに短くても良いわけです。1キロ4分であるなら、4.16 m/sですから非支持距離は41.6 cmです。この値は具体的に、走りながら意識してみようと思いました。

全体を読み通して感じることは、フォームに関する議論が少ないということです。フォームとケガには関連性があるとまで書いてありながら、片脚支持のときに膝が内側に入り過ぎないようにするべきとだけ書かれています。個人的には、フォームについて多くの情報を得たという印象ですが、全体に対する比率は、小さいと思います。一方で、トレーニング方法に関する部分が大きいと感じました。どれくらいの速度で、どれくらいの距離を走るのかという話です。

マラソンコミュニティでは、マラソンの記録を向上する手法として、生理学的なアプローチが好まれるようです。確かに、30 kmの壁は生理学的な壁のように思われます。だから、グリコーゲンを蓄えたり、脂肪を燃焼させたり、という話になります。LT値を基準に考えるのは何か科学的にトレーニングしている感じがします。実際に最適だと考えますので、私も取り入れようと思います。

しかし、LT値は身体が耐えられる負荷を定義しているわけです。過大ではなく、過小でもない、負荷の最適化です。ここで大事な観点が抜けています。身体への負荷が一定だとしても、それで実現できる速度は一定ではない、ということです。走り方次第で、速度は変わります。ならば、まず、身体の感じる負荷を一定にして、どれだけの速さで走れるかを追究するのが最初のステップではないでしょうか。

※2024年5月20日追記 LT値を保つランニングはその人にとっての適正な速度であるため、フォームの改善を促す効果があると気が付きました。遅過ぎれば、楽であるため、フォームの改善の必要性が感じられません。速過ぎれば、苦しくて長く走れないため、フォームに対する洞察と試行錯誤ができません。ですから、LT値という客観的な中間速度を提案することが有効なのです。敢えてフォームには言及しないことで、教科書の言うことではなく、身体が求める効率性を追究することができます。正しいフォームが定義できない状況においては最善の方法かも知れません。追記終わり

本書では、フォームを最適に近づけるという議論は一切ないのです。これが、もし、水泳だったら、間違いなくフォームの話がメインになるでしょう。泳ぎ方によって効率が違う以前に、泳ぎ方が間違っていると泳げないからです。これは和田賢一氏が走り革命理論で指摘している通りです。泳げない人に対して、LT値の議論は意味を成しません。同様に、長く走れない人に対してはまず、走り方を教えるべきです。これはChiRunningに書いてあります。
その意味で、重力ランニングは本書のミッシングピースである部分を受け持っていると考えます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です