誰も教えてくれなかったマラソンフォームの基本―遅く走り始めた人ほど大切な60のコツ

みやす のんき 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784862554406

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★☆ 4点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★★☆☆ 3点

感想・見解

マンガ家のみやすのんき氏の本です。著者は、格別に運動が得意だったわけではないそうです。身体的な才能に恵まれたわけではない、著者がどのようにサブスリーを達成するかを考え抜いた末の結論です。非常に精密にエリートランナーの走りを観察しています。また、認識と身体の動きのズレがあることも考慮されています。フォームについて、ここまで深く考察している本は他にありません。全体的には重力ランニングと同じ走り方を目指して、良い指摘がたくさん含まれています。ぜひ、一般ランナーにおすすめしたい一冊です。タイトルにある通り、マラソンフォームに関して60個のPOINTをアドバイスをするという体裁を取っていますので、いくつかのPOINTについてコメントします。

POINT22 着地手前の振り戻し動作が大切

大事なポイントですが、指摘している本は少ないです。接地する際には、足の地面に対する相対速度がゼロであることが理想であることは、よく考えれば誰でもわかる話です。しかし、実際には、足が地面に対して前方に移動したまま地面に接地している人がほとんどです。すると、シューズのソールが地面に擦れながら着地します。この間、何が起きているかと言えば、足が地面から運動エネルギーをもらって加速しています。足は地面から後ろ向きの力を受けて押されているのです。後ろ向きの力を受けているということは、減速するということです。そこで、着地をする前に、予め地面と同じ速度に加速しておくことが最良であると説いているのです。

ただ、「振り戻し」という用語は誤解を与えます。脚は振り子ではないからです。振り子は重力によって運動の向きを変えます。しかし、身体の前方に出た遊脚は筋力で「引き戻す」ものです。地面に対して速度ゼロになるまで引いて加速してあれば、上述のような減速は発生しません。

POINT31 初心者と上級者の接地時間は違う

ここでSSCが登場します。上級者になるとSSCを利用するため、接地時間が短いという説明です。この本ではSSCを強く推奨しています。「「接地時間が短い=速くなる」の方程式は完全に成り立つわけではありませんが、かなり相関性があります。」とあります。速く進むためには脚を速く入れ替えなければならないのですから、これは当たり前の帰結です。速くなれば接地時間を短くしないわけにはいかないのです。この書き方は、あたかも、接地時間を短くすると速くなる、と言っているように聞こえます。

POINT33 腿上げの意識は着地のときに一瞬だけ

これだけでは何を言っているかわからないと思います。少なくとも私にはわかりませんでした。左脚(または右脚)での着地のときに一瞬だけ右脚(または左脚)に腿上げの感覚はあっても良いと言っているのです。

POINT35 SSCで弾性エネルギーを狙え

SSCについては、一般的な言葉となっているようですが、定義が良くわかりません。Stretch-Shortning-Cycleとのことですので、伸ばしてから縮めるという幅広い意味なのでしょうか。

例えば、走り革命理論では足首を固定と言っているので、ふくらはぎの筋肉を収縮させておけと書いているように思われます。本書97ページでは、通常の動作は筋肉が収縮し、腱は伸縮しない一方で、SSCでは筋肉をあらかじめ固くしておいて(予備緊張)、それがゆえに、動作によって腱が引き伸ばされて、それが弾性エネルギーを蓄積すると説明されているように見える図があります。しかし、よく読んでみると膝下はリラックスすると書いてありますから、上図の意味するところは、無理やり解釈すると、SSCでは、脊髄反射により筋肉が収縮し、遅れて腱が収縮するということでしょうか。SSCについては勉強する必要があるとわかりました。少なくともランニング中のあらゆる動きを人間が自身の意思によって制御することはないというのは確かだと思います。では、走動作のどこに人間は介入できるのか、あるいは、介入すべきなのか、ということが課題となります。

POINT38 膝より下はただ置きにいくだけ

足首を固めるのは間違いであると書かれています。「ケニア人選手は足首を固めていないにも関わらず、足首の角度がランニング中に動かないのは、そもそも地面を蹴っていないからです。」とあります。この説明が正しければ、走り革命理論の中でのスプリントとは真逆の説明です。両者とも、足首関節を意識的に動かすことを否定している点では一致していますが、解決策が逆です。足首を本当に固定するには、足首関節の両側の筋肉を共縮させるしかありませんが、共縮が自然な走りに含まれるとは思えません。走り革命理論でも、ふくらはぎを共縮させて、四六時中足首を固定しろ、とは言っていないと考えます。それでも足首を使って、地面を押し返すと言っていますから、接地中は足首の角度を保つようにして、踵を接地せず、離地することを求めているのです。だとすると、接地する前に、意識的に予備緊張させているはずです。スプリントとは最高速を追求することですから、より短い接地が要求されるのは、物理的に明らかです。したがって、速度が大きくなるほど、接地時間を短くする必要がある。そこで、ふくらはぎのバネ定数を大きくする、つまり、ふくらはぎの筋肉を緊張させる。これは納得できます。

POINT42 高く跳んではいけない。腰低意識とは?

腰低の意識という指摘も他の本で見かけたことはありません。はっきりと腰を低く保つと書いてあるのは画期的です。感覚的にも、スーッと横に移動すると書いてあります。これも一般人にはわかりにくい感覚ですが、真実です。しかし、物理的な説明が一切なく、意識・感覚論に留まっているので、一般ランナーには伝わらないでしょう。本書では、まだ認識層での話ということになっていますが、実際に腰はできる限り低く保つということを説明することに挑戦したのが本ブログです。

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