アルティメットフォアフット走法 : 56歳のサブスリー!エイジシュートへの挑戦

みやすのんき 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784408338712

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★☆ 4点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★★☆☆ 3点

感想・見解

漫画家のみやすのんき氏による本。

ランニングの門外漢ですが、ランニングについて鋭い洞察力を持った方です。フォアフット走法を勧める内容です。説明は、認識層と身体層に跨っており、良くあるランニングのノウハウ本を同じような分布です。しかし、従来のランニングに対して、先鋭的な提案をしていきます。感覚的な議論と物理的な議論が文字だけで行われるので、わかりにくく、ところどころに矛盾する点が残ります。この辺は、図がないことで理論の整理が不十分になっていると感じます。後半には、著者がつくばマラソンで自己ベストを更新するまでのストーリーが語られます。著者は、記録に強くこだわっているので、理論の追究は二の次で、自身の記録更新が第一義なのだと伺えます。実際、マラソンに取り組んでいる方々にとっては、読み物としても楽しく、参考になるでしょう。自分自身で自己ベストを更新するという結果を実際に出している点に説得力を感じます。

50歳を過ぎてからランニングを始めた著者はつま先から着地するということに初めは疑問を持っていました。それほどまでに、踵から入り、前方に体重を移動させていくプロセスを当然と信じていた訳です。しかし、門外漢である彼には失うものはありません。自身の試行錯誤の中から、フォアフット走法の有効性を証明していきます。

フォアフットランニングを勧めるということですから、課題設定は、踵着地かつま先着地か?という問いにならざるを得ません。しかし、これでは、課題自体がずれています。それでも、つま先着地を試す中で、着地の位置が矯正されていきます。つまり、ランニングメソッドとしては正しい結論へ至ります。着地時の脛を前傾は、正しい着地位置を探す上で有効な概念だと思います。

その後、シザースの概念に辿り着きます。シザースとは、空中で後ろ脚が前脚を追い抜くことだそうです。地面を蹴るという思想を捨てた上に、遊脚に着目して、それをどのように動かすかを議論するところまでは良いのですが、遊脚を早く地面に戻す方が良いと書いていながら、滞空時間がある前提には違和感が残ります。離地した脚を前方に送ることを早めるのがシザース概念の重要性と言っていることから、やはり、重力ランニングの本質までは到達していないことが分かります。

ランニングに関する書籍としては、5冊目ですが、これが著者の集大成だと思います。6冊目は、ランニングフォームの改善ポイントとして、腕振りに着目し、独自に理論を展開しましたが、結果が出ませんでした。今作のフォアフット走法の取り組みで一定の完成を見ていたところに、蛇足を書き加えた形となりました。走動作について理論化する程度が細かくなるほどに、ランニングが改善するわけではないのです。著者の場合は、本を出すために何かしら新しい理論を提唱しなければならないという状況が、思考に歪みを生じさせたのだと推定します。ビジネスとして取り組むことが、研究活動に推進力を与える一方で、本質を失わせる作用(売れることが目的となる)を持つこともよくよく心得ておかなければなりません。