身体動作解体新書:現象を本質的に分解してパフォーマンスを上げる
里 大輔 著
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784862556745
評価
項目 | スコア |
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重力ランニングとの親和性 | ★★★☆☆ 3点 |
理論の完成度 | ★★★★☆ 4点 |
読み物としての面白さ | ★★★☆☆ 3点 |
感想・見解
ランニングのみを対象にした本ではありません。身体の動かし方に関する本でもありません。身体の動かし方について暗黙知を言語化することを説いています。また、プレイヤーとしてではなく、コーチとして、この本を書いています。身体の動かし方を教えてくれませんが、身体の動かし方の改善方法を知るための本としては大変良くできています。
著者は、パフォーマンスを、アビリティ、テクニック、スキルという3つの階層に、技術を分けています。アビリティとは、いわゆる、身体の才能です。フィジカルの強さとも言われる要素です。スキルは身体の動かし方を離れて外部との関わり方になります。端的には、敵や味方との駆け引きと連携です。アビリティとテクニックとスキルは、相互に関係なく成立します。スキルだけがアビリティやテクニックよりも突出しているという状況があるということです。
余談ですが、私は高校時代にサッカーに必要な能力を、体力、技術、戦術の3層に分けて考えていました。私が当時導き出した結論は、試合で実際に発揮されるのは、上記3層が重なった部分だけだというものです。体力が足りなければ高い技術があったとしても試合では、それを披露することはできません。また、局面を展開するイメージ(戦術)が描けたとしても、必要なパスを実現する技術と体力がなければ、局面を打開できません。ベテランプレーヤーが経験と技術で体力の衰えを補えると言っても、残存している体力の範囲に限られるのです。試合で発揮されない技術は、もはや、技術とは言わないと私は思います。すなわち、技術は体力の制約を受け、戦術は技術の制約を受けると考えます。著者とよく似た考えです。
後半は、コーチの視点から、身体層における独自の理論を展開します。みぞおちと臍の距離を勝ちラインと呼び、これを長く保つのが正しい姿勢と定義します。これについては、4スタンス理論を知っている身からすると、どうしても無理があるように聞こえてしまいます。この部分については、参考程度に読み流しました。
その後は、身体の動きの言語化するための9つ指標とその利用方法を解説します。運動の世界における暗黙知を形式知へ変えることで、問題が起きたときに立ち返ることができるという指摘はまさにその通りだと思います。著者は言語化というワードを使いますが、その本質は、意識化です。正しい身体の動かし方を実現していたとして、それを意識化できていれば、それを記憶し、必要なときに再現できます。意識化できていなければ、失われたときに戻れなくなってしまいます。それが問題となるほどに、身体の動かし方は無意識になされている部分が多くありますし、そのこと自体が意識化されていないことが課題です。