走り方新時代―「前回しの走り」で足は速くなる

五味 宏生 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784839981044

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★☆☆☆ 2点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★☆☆☆ 2点

感想・見解

ランニングフォームについて詳しく書かれている本です。全般に渡って写真で説明されており、わかりやすいです。トレーニングの動画へのQRコードが設置されていて、実際にやってみることができます。

キーワードは前回しです。身体の前側で脚を入れ替えることを意識するという意味です。脚で地面を後ろに蹴らない、足首を返さない、などのトム・テレツ氏の教えと同じ内容です。

客観的な動きと主観的な感覚は別であるということも前提とされており、著者は指導者として経験値があることを窺わせます。実際、福島千里さんの指導をしたとありました。ディスタンスもスプリントも同じだと考えておられるようですが、トレーニングの内容は完全にスプリント向けです。

26ページの見出しが「接地時間と脚の入れ替え時間を短くすればスピードは速くなる」となっています。ピッチを上げることが目的になっていると、そのために接地時間を短くするという結論が出てきます。しかし、これは非常に良くある誤解です。

推進力を得るためには、接地時間はできる限り長くするべきです。そうして、スピードが上がるから、脚を速く入れ替えざるを得ず、ピッチが上がるのです。これが物理的な真実と理解できたら、接地時間を短くしてピッチを上げるのは、意味が無いと即座に判断できます。同様にストライドも伸ばすのではなく、伸ばさざるを得ないだけです。ピッチとストライドを共に上げて、転倒を避けなければ、走り続けられないからです。確かに、ピッチ x ストライド = スピードの等式は成り立ちます。ただし、スピードの増加が原因で、ピッチとストライドの増加は結果です。逆ではありません。スピードの増加をもたらすのは、筋力ではなく重力です。そのため、接地が必須なのです。

この誤解の根底にあるのは、やはり、跳躍です。ランニングを跳躍の連続と捉えています。接地点からできるだけ速く跳躍し、できるだけ遠くの次の接地点へ着地するという感覚です。そのために、一点にできるだけ筋力を集中させることが是とされます。重力ランニングにおいては、真逆です。接地している時間にできるだけ均等に推進力を得ることで、筋力の消耗を抑えます。重心を上昇させ、地面から離れること、すなわち跳躍は、むしろ、忌むべき行為なのです。

今この点を指摘しながら、これまで、この誤った説明をランニング本の中で何度も見た、ということを思い出しています。著者の異なる複数の本で、同じことを説明されると、それが正しいと思えてきます。まして、この本のように、日本記録保持者を指導した人が書いた装丁の整った本で書かれていたら、誰でも信じます。私も30年間、信じていました。

だから、もう一度、書いておきます。スピードの増加が原因で、ピッチとストライドの増加は結果です。逆ではありません。

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