ランニング革命 もっと速く、長く、ずっと怪我なく走るための方法
ニコラス・ロマノフ, カート・ブランガード 著
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0876425
評価
項目 | スコア |
---|---|
重力ランニングとの親和性 | ★★★★☆ 4点 |
理論の完成度 | ★★★★☆ 4点 |
読み物としての面白さ | ★★★★☆ 4点 |
感想・見解
著者のニコラス・ロマノフ氏は世界的に有名なスポーツ科学者で、英語で書かれたランニングメソッドの本を探すとロマノフ氏の本ばかりが出てきます。
1977年から指導を始めたということですから、まず、ランニングをステージに分けて考えることがその当時としては画期的なアイデアでした。さらに、踵着地を否定することも同様に画期的なことでした。まさしく、ランニング革命とみなされたことでしょう。
ランニングの理論が大変わかりやすく構成されます。ポーズ→フォール→プルの3ステージの順に説明されます。着目すべきは、フォールです。ランニング中の推進とは倒れることだと見破っています。したがって、次に来るのは脚を戻すプルであり、押すとか、蹴るとか、跳ぶなどの用語が出てきません。これで、重力ランニングの半分までは来ていると言ってよいでしょう。彼がこれを発表した時代を考慮すると、如何に先進的だったかがわかります。フォールの図を見ると、まさに私が重力ランニングを解説していく途中の図と完全に一致します。
ただし、物理的な説明はそこで終わりです。ポーズの時に身体を支えるという観念を捨て切れていないので、文章の表現にそれが現れています。さらに、立った状態でポーズを練習するという点も良くありません。重力ランニングのポイントの1つは、「着地したときに身体を支えない」こと、「着地したときに倒れるのではなく、既に倒れている」ことなのです。ロマノフ氏が指導するようなエリートランナーの卵ならば、身体を支えるとか、倒れるという言葉でも、直感的に重力ランニングまで自ら進み、体得することができるのでしょう。しかし、一般のランナーでは、なかなか伝わらないでしょう。感覚的な記述だけでは限界があります。
理論の説明が終わると後続の章では、トレーニングのやり方について解説されます。
もう一つの特長は身体の動きだけでなく、内面に着目している点です。ランニングを習得するために、感覚に集中することの必要性を説いています。ランニングに行くときに携帯音楽プレイヤーを持って行かないことを強く推奨しています。私も同感です。しかし、ランニングという精密さを求められる作業は何かをしながらできることではないのです。そうして、感覚から気づきを得て初めて改善していくのです。私もラジオを聞きながら走っていた時期がありました。しかし、そのときは、ただ走っていただけでランナーとして成長しませんでした。
また、動画の撮影も推奨しています。これは言うまでもなく、自分の走りを客観視するためです。また、ランニングの本としては、珍しいことに、PDCAサイクルの重要性を解いています。まるで、ビジネス書を読んでいるような気分になりました。ロマノフ氏がコーチとして実績を残してきたのは、ランニングメソッドの理論だけではなく、何かを習得することの本質を抑えていたからではないかと思います。