Born to Run 2 : The Ultimate Training Guide

Christopher McDougall / Eric Orton 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-12-EY00419195

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★★ 5点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★★★★ 5点

感想・見解

Born to Runの続編です。著者のうちの一人であるChristopher McDougall氏によるBorn to Runは有名な本ですから、知っている方も多いと思います。

メキシコとアメリカの国境付近の峡谷に隠れ住むタラウマラ族は、驚異的な持久力を持っています。その理由がわかれば自分もパフォーマンスを向上できるのではないか、と考えるのは自然な思考です。彼らの驚異的な持久力は、確かに特筆すべきものですが、著者のChristopher McDougall氏の視点は少し違います。McDougall氏はとにかく走ると脚が痛んで走れない人なので、持久力という言葉の意味するところは、何故、痛みが出ないのか、という問いです。そして、タラウマラ族と同じ環境で走ることにより、いわゆる文明の中におけるランニングが誤ったランニングメソッドを作り出しているのだという結論にたどり着きます。つまり、こういうことです。タラウマラ族は、薄っぺらなサンダルで大自然の複雑な地面を走破することを初めから求められる。よって、身体の痛まない自然な走り方を身に着ける。一方で、著者は、厚底のシューズを履いて、平坦な道路を走っているので、正しい走りを身に着けることができない。厚底のシューズはかかと着地を促すように作られています。また、足首の左右の動きも制限します。そのような靴を履いていると、足裏の感覚に意識が行くこともなく、知らぬ間に身体が文句を言う(故障する)まで気が付くこともない。

Born to Run 2では、タラウマラ族との出会いによって得た彼自身の経験を世に広めるべく、いわゆる自然な走り方を身に着けるためのメソッドが開陳されます。と言っても、そのメソッドはMcDougall氏が作ったものではなく、共著者であるEric Orton氏によるものです。そのメソッド自体は非常にシンプルです。逆に言うと、微に入り細に入り定義されることなく、基本的な動きに徹することを求めています。後は「習うより慣れよ」です。

むしろ、シューズの選び方に多くのページを割いています。人間の動きを制限するようなシューズではなく、最低限の機能(足裏の保護)だけを有したものを選び、後は走って身体で覚えるという考えです。ゆえに、具体的なランニングフォームは説明されないと言って良いと思います。私はランニングフォームの解説を期待して、Born to Run2まで買いましたが、意外なまでにOrton氏はフォームに着目していない様子なのです。(McDougall氏はそもそも記者であるため、ランニングを教える側に立つという発想自体がありません。)

ただ、Born to Runには、McDougall氏がタラウマラ族の少年の走りをみて、上半身が全くぶれずに走ることに驚嘆したという記述はあるのです。このことから、タラウマラ族の走りは重力ランニングであり、McDougall氏が目指すものも同じであると判断しています。しかし、McDougall氏がその動きを運動学的に解析しようと思わないのは自然だとしても、周りのウルトラランナーたちもランニングをそのような観点からとらえない人たちなのでした。

これに対する私なりの理解は次の通りです。マラソンというロードレースではなく、トレイルランを選ぶ人たちは、千変万化する周囲の環境を楽しんでいるのです。つまり、足元は一歩ごとに違うということが大前提なのです。したがって、私が試みているように、物理学的に解析するという発想自体がナンセンスなのです。身体の感覚を研ぎ澄まし、次の一歩に集中することが本質であり、喜びなのです。長い距離を走るのは、疲労して限界が近づくことで、生命の危機を察知し、感覚が磨かれていくからではないでしょうか。

それはタイトルにも表れています。長距離を走り続けるための最終的な秘訣は走ることを喜びとすることだと結論付けています。ランニングは修行や苦痛ではなく、純粋なる喜びである。McDougall氏はそれをタラウマラ族に見て取ったのです。

トレーニングのメソッドであったり、栄養補給であったり、ウルトラマラソンに分類されるほどの距離を走るときに必要な他の要素は充実しています。

Born to Runと続編に共通する一つの特長は、ランニング本と言っても、人を軸に話が展開することです。McDougall氏の本職はスポーツライターですから、どうしてもそのような書き方になってしまうのでしょう。ランニング本でありながら、人と人とのつながりを描くドラマなのです。ランニングにまつわる苦悩を登場人物の生き様として描く技術は、スポーツライターの真髄であると思いました。

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