福島大学陸上部の「速い走り」が身につく本―あらゆるスポーツに応用できる「川本理論」のすべて
川本 和久 著
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784837670889
評価
項目 | スコア |
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重力ランニングとの親和性 | ★★★☆☆ 3点 |
理論の完成度 | ★★★★☆ 4点 |
読み物としての面白さ | ★★★★☆ 4点 |
感想・見解
福島大学でスプリントを教えておられた川本先生の本です。
川本先生が指導を始めた1980年代後半頃は、走り方という概念自体が一般的でなかったようです。陸上部の部員でさえ、やみくもに身体をいじめることがトレーニングと思っていました。その時代において、川本先生は走り方に着目し、走り方を磨くことで、短距離において指導者としての結果を積み重ねてきました。何人もの日本記録保持者を輩出したのは偶然ではありません。重心を移動させる走動作それ自体に着目し、これを改善することに取り組んだ、日本におけるパイオニアの一人だったことは間違いありません。走りの改善は、陸上競技だけでなく、野球などの球技においても重要であるという指摘もされています。
この本は2008年に出版されたものです。弘山勉さんの動画を見ていたら、川本先生の名前が出てきたのですが、そのときは知らない人でしたので、聞き流していました。数日後に筑波大の近くの古本屋に立ち寄りました。土地柄、ランニングに関する本がたくさん置いてあるかもしれないと思って、棚を眺めていたら、福島大学、川本という文字が目に入ったのでした。そこで、弘山氏の動画とつながり、即購入しました。川本先生の、「短距離は努力で改善できる」という言葉の意味するところを知るためです。
筋力を活かすためにどうするか、という観点から走り方が組み立てられています。立ち幅跳びから出発する点にそれが現れています。つまり、ランニングを跳躍の連続だと捉えています。ゆえに緩衝しない、という言葉が出てきます。脚を後方に蹴ることは否定していますが、真下に強く蹴ることは推奨しています。この点に気がついたとき、私の中で、トム・テレツ氏の教えと重なりました。あのカール・ルイス氏の指導者です。身体の真下を強く蹴る、そして、脚を速やかに戻す。それがテレツ氏の教えです。川本先生の経歴をより詳しく見てみると、予想した通り、テレツ氏の下で学んでいました。
100m走は人間が最も速く走ることを追究する競技です。それは重力ランニングの中の特殊な条件下での1つの形態です。つまり、最大筋力を発揮した状態です。正しくは、最大出力というべきでしょう。この条件では、身体の真下を垂直方向に蹴り、できるだけ大きな反力を瞬間的に発生させるのが正解です。そのときは、最高速度で巡航しており、重心が持ち上がることはないのです。つまり、重力ランニングと一致するのです。
しかしながら、最高速度でなければ、上記の教えは正しくなくなります。より精確に述べるなら、上記の教えが最高速度を追究する条件においてのみ正しいということを指導者は知っているべきです。さらには、その物理学的背景まで理解して初めて指導が可能になると思います。川本先生は弘山氏に対して、長距離は才能の世界だと仰ったそうです。つまり、最高速度ではなく、持久を求める条件でのランニングに対しては知見を持ち合わせていなかったのではないでしょうか。私はランニングに関して、重心を前方に移動させるという1つの物理現象である限り、ある一つの法則の中で条件を指定することで現象が表現できると考えています。相対性理論がそうであるように、量子力学がそうであるように、これが物理学の定石であり、目的です。