がんばらないで楽に長く走る―整体師ランナーが教える体に優しい走り方 Enjoy Running!! (増補改訂版)
鮎川 良 著
出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784058022412
評価
項目 | スコア |
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重力ランニングとの親和性 | ★★★★☆ 4点 |
理論の完成度 | ★★★☆☆ 3点 |
読み物としての面白さ | ★★★★☆ 4点 |
感想・見解
蹴らない走りを推奨する本の一つです。タイトルがそのままでわかりやすいですね。重力ランニングよりもセンスがあります。おかげさまで、短時間に立ち寄った本屋で見つけることができました。とは言え、タイトルの他に、走り方に名前が必要です。走り方の名前は、エンジョイランです。目指しているものは、重力ランニングと同じです。
がんばらない系の本はランニングに限らず、一定数が存在してきたと思います。何事も「頑張る」ことで成果を上げることは最もわかりやすい方法だと思います。勉強にしても、仕事にしても、頑張ることで成果を向上させることは、一定のレベルまで有効です。長距離走はその典型例でしょう。身体が若い間に、長距離走に取り組んだ人にとっては、頑張らないで走ることは理解できないかもしれません。ただこの本は、成果として、「長く」走ることを明確に挙げています。「速く」走る、とは書いていません。したがって、頑張ってきた人にとっても受け入れやすいと思います。しかし、頑張ることを一旦脇に置くことで、実はさらに速く走れるようにもなります。それは、あたかも、袋小路から一旦引き返して、正しい道を進み直すようなものです。
実際、ランニングに関しても頑張ることを止めて、楽に走ることを追求することで、より速く走れるようになります。それは、Born to Runで書かれていたことですし、私もそうだと考えています。頑張ることを是とする考え方の中には、思考停止を含むことは以前にも書きました。このような本が増えることは、ランニングに限らず、頑張らないことの重要性を広めるために良いことです。
著者は整体師の方ですから、この本の本分は、ランニングの前後のストレッチのやり方です。ランナーの身体をケアする立場にある者として、まずは、セルフケア(ストレッチ)の方法を発信し、二次的に、身体を壊さないランニングを提案している、と私は理解しました。タイトルに「長く」と書いてある通り、1つの目標としてはフルマラソンを据えています。
本分ではないところ、申し訳ないのですが、ランニングフォームについて書かれた第二章を見ていきましょう。エンジョイランを実現するための5つのルールが書いてあります。2から4番目は、この手の本であれば、どれにでも書いてある基本的なルールです。これらは間違いなく正しいのですが、それだけでは本質を伝えることはできません。これらを元に長い試行錯誤を繰り返す必要があります。ただ、誰もが進むべき方向を明確に示しています。
しかし、1番目と5番目はいけません。これらはない方が、むしろ良かったくらいです。2から4番目のルールに絞り、重心の移動に意識を集中すれば、走りを効率化できたのに、脚の運びを含めたことでノイズが生まれます。誰でも皆、2本の脚で走るのですから、放っておけば、2本のレールの上を走るのです。レール間の距離は人それぞれなのに、ここでレール間の距離をテニスボール1個分と定義してしまいます。さらに、足の向きを真っすぐと決めてしまいます。これも人それぞれです。確かに、足の向きを開いたり、閉じたりする場合を認めてしまうと、レール間の距離をどこで定義したら良いかもわからなくなってしまいますから、都合が悪いのは確かでしょう。したがって、1番目と5番目は一体不可分です。
5番目のルールにおいて、足は進行方向に「真っすぐ」向けると言われていますが、どの方向が真っすぐなのでしょうか。裸足で足跡を残したとき、内側の接線が進行方向に対して平行が真っすぐという定義でしょうか。それとも、外側の接線でしょうか。あるいは、両接線の交わる角度の二等分線の方向かも知れません。
仮に、最後の二等分線の方向を真っすぐだとします。その方向を進行方向に向けろと言われたら、私は走りにくいです。その方向に足首を屈曲させようとすると、浅くしか曲げられません。足首の屈曲が浅いと足を後ろに送るときに問題になります。さらに、足を後ろに送ろうとすると(足首を深く曲げようとすると)、足の内側に向けて傾けるか、外側に傾けるかのいずれかを迫られます。
高橋尚子さんは内側に傾けるタイプ、野口みずきさんは外側に傾けるタイプです。エリートランナーに限らず、誰もが内側に傾けるか、外側に傾けるかのいずれかの選択をしています。その結果、内側に傾ける人は足を外側に向けて着地します。外側に傾ける人は逆に内側に向けて着地します。それは無意識の選択である場合がほとんどです。これを真っ直ぐと指定することで、身体の自然な動きを妨げてしまいます。
オリンピック金メダリストが従っていないことを原則というからには、オリンピック金メダリストを除外するだけの説明が必要です。我々一般ランナーとオリンピアンのランニングは、根本から違うということでしょうか。説明がないままだと、実例に照らして検証されていないアドバイスだと思われても仕方ありません。
100%の善意であったとしても、詳細をアドバイスすることで、その人の本来の身体の使い方を歪めてしまう可能性があります。そのアドバイスで改善する人もいますが、そのアドバイスが足枷になる人もいるのです。このような現象を全て無くすということは原理的に無理ですが、せめて4スタンス理論の基本的な考え方(正しい走り方は1つではない)だけでも普及すれば、少なくとも、ランニングの指導においては、大いに改善が見られると思います。(と、何度も書きながら、4スタンス理論に関する書評を書いていないのは、書きたいことが山ほどあるためなのです。誠に申し訳ありません。)
野口みずきさんの走り方の例
出典:https://www.youtube.com/watch?v=PmF4uYfdPeY#t=0h1m33s