42.195kmの科学―マラソン「つま先着地」VS「かかと着地」

NHKスペシャル取材班 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784041104019

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★★ 5点
理論の完成度★★★★☆ 4点
読み物としての面白さ★★★★☆ 4点

感想・見解

今になって、この本に出会いましたが、実質的に重力ランニングの検証のように受けとりました。途中までは、まるで、私が説明したことを全て見透かされているかのように感じました。しかし、読了してみると、違う印象を持っていました。この本(番組)を作った人は、ランニングフォームの真理ではなく、飽くまで勝負事としてのマラソンにおける東アフリカ勢の強さを解き明かしたかったようです。彼らの強さの根拠を示すことで、日本人ランナーに対抗の糸口を与えるのが目的だったと理解しました。

第一章はゲブラシラシエ選手の強さについて主に肉体面から調べます。
第二章はパトリック・マカウ選手のランニングフォームについて解析します。
第三章は東アフリカにおける、強いランナーを育てる仕組みを明らかにします。
第四章は人類が2時間を切るという予測を行ないます。

私が着目したのは、第二章です。東アフリカのランナーの強さの秘訣の1つに、爪先着地を挙げています。その中でも、マカウ選手の強さは、衝撃を最小化している、つま先着地の技術に由来するとしています。着地の直前に足を引き付ける動きがあることや、衝撃の大きさを実際に測定してさえいます。ゲブラシラシエ選手とマカウ選手のランニングについて詳細なデータがありました。ストライドは二人とも1.8mであるが、前者の接地時間は0.14秒、滞空時間は0.17秒でした。後者はそれぞれ、0.17秒と0.15秒でした。身体重心の上下動は前者が9.3 cm、後者が7.5 cmでした。ここまでの細かいデータがあり、非常に精緻な検証と言って良いでしょう。期せずして貴重なデータが手に入りました。これらの数値を元にして、重力ランニングのシミュレーションを検証するつもりです。

対して、日本の実業団の選手たちは、踵着地であり、衝撃が大きく、ブレーキもかかっていると指摘します。それならば、その技術を身につければ良いと考えますが、実業団の指導者からは否定的な見解が聞かれます。本書でも、つま先着地は、幼少期からの生活環境によって培われたものであるから、習得には時間がかかると書いてあります。一度は世界記録を更新したランナーの技術を紹介しても、一般ランナーには真似できるものではないと言わんばかりです。今できていないことだから、できないと言ってしまったら、それまでです。科学的な裏打ちがあるのだから、それに取り組むのが王道ではないかと思います。私にとっては、意外な方向に話が展開し、その技術は日本人のものではなく、彼らのもの、であり、手を出すべきではないと暗に示しただけで、次の章へ進んでしまいました。

第三章の後半でロンドンオリンピックの選考会の結果が明かされます。この本の主人公と思われた(製作者もそのように考えていたであろう)マカウ選手がロンドンオリンピックに出場できなかったため、番組ストーリーの構成上、そうせざるを得なかったのだと考えます。番組作りであるが故の制約です。製作者の実感であると思いますが、マラソンほど結果を予測できないものはない、という結論に落ち着きます。こうして、着地の技術によるランニングエコノミーの改善という非常に重要な指摘が印象に残らない構成ができあがりました。よって、10年以上前にNHKの地上波で放映されたにも関わらず、それが周知の事実となっていないのです。これが正しく伝播していたなら、このブログは存在意義を失っていたでしょう。

実際に、マカウ選手の走りを見てみると、高速でありながら、力みがなく、地面を滑っているような走りです。着地の直前に足を引き付けながら、つま先の外側で着地しており、地面との摩擦と衝撃がいなされていることが良くわかります。接地の瞬間の地面反力を山本選手と比較した場面で、マカウ選手は体重の1.6倍、山本選手は2.2倍となっていました。書籍では力の絶対値に着目して、マカウ選手の着地は脚に負担が小さい、と論じています。私は、力の方向に着目しました。マカウ選手の方が、より後方に向かっていました。逆に言えば、山本選手の方が垂直に近かったのです。マカウ選手が山本選手よりも身体重心の前方に着地していることを意味しています。身体重心よりも前方へ足を置き、時間(距離)をかけて体重を乗せていく、という着地がマカウ選手の特徴なのです。この着地により、上下動の少ない走りが実現しているわけです。この点を踏まえて、考察してみようと思います。

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