ランナーズ (2025年6月号)

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-04-4910092990652

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★☆ 4点
理論の完成度★★★☆☆ 3点
読み物としての面白さ★★★☆☆ 3点

感想・見解

書籍のタイトルなので、皆さん御存知の「ランナーズ」としましたが、私が注目したのは一部の記事です。毎月、ランナーズを読んでいるわけではなく、見出しを見て、重力ランニングに関係のありそうな記事があったときに、読んでいます。

今回、注目したのは「練習変えずにフルが5分速くなる(?)『ランナーよ、ピッチを上げろ!』」です。

このブログで何度も指摘しましたが、またしても、スピード=ピッチ×ストライドの公式から話が始まります。次は、(ストライドを変えずに)ピッチを増加させれば、スピードが増加する、という論理展開です。あたかもストライドを変えずに機械のようにピッチだけを増加させていけるかのように、フルマラソンのゴールタイムとピッチの関係が表として示されます。これは簡単な計算から導き出される定量的な結論です。文面にはなくても、そんな風に事が運ばないことは編集者もわかっています。

そこで、定性的な裏付けもなされます。ピッチが増えると一歩一歩の衝撃が小さくなるのでマラソン後半の「筋ダメージによる失速」が避けられ、また、故障のリスクが下がると書かれています。原因と結果は合っていると考えます。しかし、ピッチが増えることと衝撃が小さくなることの関係は実際は明らかではありません。本来的には、それらをつなぐ、もう一段の解説が必要でしょう。

その後、ピッチを増加させるトレーニングが紹介されます。このようなメソッドがないと、読者が具体的に取り組みにくいので、当然に用意しなければならないコンテンツです。そして、実際にモニターを募集して実施した結果、14人中13人のピッチが増加したのです。記録が向上したという例も2つありました。

ピッチを増やすという原因に対して、記録が向上という結果が得られたのですから、それらに因果関係があるというのは間違いありません。だから、「ピッチをあげよ!」という記事のタイトルになるのです。

ピッチを増加させようと心掛けることはほとんど場合において記録が向上することにつながるからです。しかし、それは例のスピードの公式によるものではありません。ピッチを増加させようと心掛けることにより、地面を蹴るという動作の抑制につながるからです。「地面を蹴るな」と繰り返し言うよりも、「ピッチを上げろ」と言った方が良いという、いわば、指導方法の検証のように私は受け取りました。

これは私自身の経験から言いますが、「地面を蹴るな」と言われても、無意識のレベルでランニングと跳躍が結びついているので、意識上は蹴っているつもりがなくても、蹴ってしまうのです。ですから、「地面を蹴るな」と言われても効果がないのです。しかし、「ピッチを上げろ」と言われて、ピッチを上げようとすると地面を蹴ることを無意識のうちに避けるようになります。その結果、蹴らない走り、つまり、効率的な走りが身に付くということです。結果として、しばらくはピッチを増加させようとすることで、記録は向上すると予想します。

この記事には、「ピッチ走法伝道師が語る『ピッチを増やしてマラソンランキング5年連続1位』」が続きます。大竹さんはフルマラソンを2時間38分で走り切るという相当な実力者です。このレベルまで到達できるということは「ピッチを上げろ」という方針は、一般ランナーの事実上全員に対して有効ということです。したがって、この記事は、特に中高年ランナーにとって、珠玉のごとき価値を持つものだと言えます。

大竹さんの著書は、既に紹介しています。

ただ、一言付け加えさせていただきたいことがあります。過去の私だったら、最初の論理展開(スピード=ピッチ×ストライドである。ゆえに、ピッチを増加させればスピードが増加する。)を見せられた時点で、引っかかってしまうのです。人間は、ピッチだけを独立の変数として増加させることはできない、という事実があるからです。その事実を無視した、あるいは、事実と異なる仮定(「ストライドが一定ならば」)を置くことで展開されるストーリーは信じられないのです。私と同じように感じ、この記事を信じない人はたくさんいると思います。一方で、細かいことは脇に置いて、結果が出たというならやってみようと思って、記録を向上させる人もいると思います。このブログは前者に属する人のための解説です。

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