心を整えるランニング
ウィリアム プーレン 著 / 児島 修 訳

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784799322390
評価
項目 | スコア |
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重力ランニングとの親和性 | ★★★☆☆ 3点 |
理論の完成度 | ★★★☆☆ 3点 |
読み物としての面白さ | ★★★☆☆ 3点 |
感想・見解
ランニングを習慣にしている人であれば、ほぼ全員がランニングがもたらす心身への良い効果は知っていると思います。この部分は暗黙の共通認識となった上で、大会に出るとか記録を伸ばすということを議論するのがランニングコミュニティです。
規模の大小を問わず、マラソン大会の持つ和やかさは、いつ行っても気持ちの良いものです。たとえ、レースが思い通りの結果にならなかったとしても、その場に作り出される、人生に対する肯定感は私を必ず元気にしてくれます。
この本は、セラピストが著したものですので、こういった事実をまだ知らない人に向けて書かれた本です。特に、ただ走る習慣がないだけの人ではなく、人生を著しく難しいと感じている人が対象です。
帯に「不安・ストレスから自由になるマインドフルな走り方」とあります。マインドフルという言葉は、実に多義的です。もしかすると、初めはもっと狭い意味を持っていたのかもしれませんが、手ごろな言葉として多くの人が群がったために、意味がぼやけてしまったのでしょう。マインドフルは mind + ful です。ful は with の意味を持つ接尾語ですから、mind(心、精神)とともにあるというのが、根源的な意味です。転じて、何かに対して注意を向けている状態を示すようになりました。注意を向ける対象が何であるかは必然的に重要です。この本におけるマインドフルネスの対象は、自分の感情です。感情が自分自身であると錯覚しているうちは、感情の起伏をコントロールできず、それが自分の人生に問題を起こし、自分自身を苦しめることになります。感情を対象としてただ認識することで、これを避けることができます。
では、ランニングと組み合わせることに意味はあるのでしょうか。著者はあると考えているから、この本を書いたわけです。私もあると思います。
単純に、運動することによって気分が良くなるという効果があります。また、テレビやスマホから離れて外に出ることで身体の感覚に意識を向けやすくなります。五感からの情報というのは常に「今、ここ」に関するものです。問題を抱えている人たちは、往々にして、過去の経験を悔いたり、未来の出来事を恐れたりして、「今、ここ」に存在できているということを見落としがちです。私が日々走っている中で、音楽を聴きながら走っている人をよく見かけます。これは、非常に勿体ないことです。今のところ、概ね健康で平和に生きられているとしても、「今、ここ」に立ち戻ることは誰にとっても大切なことです。走っているのであれば、その瞬間のランニングについてマインドフルであった方が人生を豊かにすると私は思います。
自ら走り出し、それを継続することができている方であれば、本人がこの本を必要とすることはないでしょう。著者と同じように、もし、そうすべきときが来たら、助ける側に立ってランニングを推奨することが役割です。