ワールドクラスになるためのサッカートレーニング
高岡 英夫 / 松井 浩 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784840105972
評価
項目 | スコア |
---|---|
重力ランニングとの親和性 | ★★★★★ 5点 |
理論の完成度 | ★★★★★ 5点 |
読み物としての面白さ | ★★★★★ 5点 |
感想・見解
高岡英夫さんとスポーツライター松井浩さんの共著です。私はこれまでに高岡さんの本を5冊ほど読んでいますが、本書はその中でも最初に手に取った一冊です。2002年7月に出版されたもので、日韓ワールドカップの直後でした。私は当時、社会人1年目で、サークル活動でフットサルを楽しむ程度でしたが、定期的にサッカー関連の書籍を読み続けていました。この本を本屋で見つけたとき、直感的に「これは買うべき本だ」と感じたことを今でも覚えています。
本書はタイトルこそサッカーですが、実際にはボールを使ったトレーニングは一切登場せず、走る力に特化した内容です。競技を問わず、身体の使い方の「本質力」を高めることを目的としており、ランニングには当然に応用可能な内容です。ちなみに、サッカーにおけるボールコントロールや味方との連携など、競技特有の技術は「具体力」と呼ばれています。
文章は中高生向けの語り口で書かれており、非常にわかりやすく、説得力のある解説がなされています。前半では、当時のトッププレイヤーであるフィーゴ、アンリ、ジダン、ベッカムの写真が掲載されています。現在では肖像権の管理が厳しくなり、書籍に掲載するには多額の費用がかかりますが、当時はまだそこまで高くなかったのでしょう。その後のトレーニング解説は、元日本代表の前園真聖選手をモデルに展開されます。私の世代にとってはスター選手であり、大変印象的であったため、この本のことは記憶に残っていました。
腸腰筋・ハムストリングス vs. 大腿四頭筋
本書の素晴らしい点は、世界のトッププレイヤーと日本人プレイヤーの間にある圧倒的なパフォーマンス差について、具体的な理由を示しているところです。理由が特定されれば、それを解消することも可能です。世界のトッププレイヤーと日本人選手の差を、使う筋肉の違いであると説明しています。前者は腸腰筋とハムストリングスを推進力として使い、大腿四頭筋でブレーキをかける。一方、後者は大腿四頭筋を推進にもブレーキにも使ってしまっているというのです。
本書では、大腿四頭筋を使わずに脚を運ぶトレーニングが紹介されているのですが、当時の私はどうしてもNGの動き方になってしまいました。つまり、大腿四頭筋を使って脚を運んでいたのです。実際、サッカーの後に痛くなるのはいつも大腿四頭筋でしたし、腿を引き上げるのは大腿四頭筋だというイメージが強かったからです。
ゆる体操とスイッチOFFの発見
トッププレイヤーと同じ身体の使い方をするためには、腸腰筋やハムストリングスを使う前提として、全身の筋肉がゆるんでいなければなりません。高岡さんは「ゆる体操」を推奨しており、身体を揺らして筋肉を緩める動きです。私はこのとき初めて、筋肉を緩めることの重要性を知りました。それまでは、力を入れる、つまりスイッチONの状態しか考えていませんでした。しかし、実際には力を抜く、すなわちスイッチOFFにすることが鍵だったのです。一見して重要そうに見えることの背後に、もっと重要なことが隠れている──これはその典型例だと思います。この本を読んだことで、当時の私は大きな進歩を得ることができました。特に、腸腰筋を使うという発想を得たことで、左脚でのキックが格段に強くなりました。
ジダンの地団駄
世界のトッププレイヤーの身体の使い方が如何なるものであるか、身体がゆるんでいるとは如何なる状態であるかを知る資料として、ジダンの出演したカップヌードルのCMが引き合いに出されています。ジダン選手が2002年ワールドカップのチケットを入手できずに悔しがって地団駄を踏むというストーリーなのですが、この地団駄の動きにジダン選手の凄さが表れているのです。地団駄を踏むとは、足を上下して地面を踏みつけることです。普通の地団駄は、全身を緊張させたまま、股関節から大腿骨を上下させます。ところが、ジダン選手の場合には足を上下させるために、骨盤と肩甲骨を滑らかに動かして、胴体を変形させるのです。脚は脱力したまま、股関節の上下に伴い、自然に吊り上がってから着地するといった感じです。加えて、同側の腕と脚が同期して上下する、ナンバの動きになっているのです。ジダン選手からしてみれば無意識にやっていることなのですが、見ていると根源的に身体の使い方が違うということが大変よくわかります。
課題と今後の展望
ただ、実は、この本を古本屋に売ってしまいました。4年ほど前のことです。重力ランニングの研究を始めてから、再びその古本屋に行き、実用書のコーナーでランニング本を探していたところ、意図せずに、この本に再会しました。サッカー本ではありますが、ランニング本として購入し直したのです。
重力ランニングの理論、すなわち、物理層の話は一応の完成を見たと考えています。しかし、それだけではサブスリーを達成できないことは言うまでもありません。重力ランニングを自分の身体でどのように実現するか──つまり身体層の改善が次の課題です。最近この本を改めて読み返したところ、ハムストリングスの重要性を再認識しました。現在は、ハムストリングス主体の推進へとシフトしていこうとしています。