「奇跡」のトレーニング 初動負荷理論が「世界」を変える

小山 裕史 著

出典:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0731553

評価

項目スコア
重力ランニングとの親和性★★★★★ 5点
理論の完成度★★★★★ 5点
読み物としての面白さ★★★★☆ 4点

感想・見解

初動負荷トレーニングという言葉をご存じでしょうか。やや難解な表現で、すぐには意味がつかみにくいかもしれません。簡単に言えば、筋肉の共縮を取り除き、反射を活用して身体が自然に滑らかに動くようにするトレーニング方法です。

著者がこの理論を提唱したのは平成初期のことで、昭和の価値観が色濃く残っていた時代でした。当時のアスリートでさえ、筋肉を意識的に動かす「根性論的な姿勢」でトレーニングを行っており、その結果として筋肉の共縮が生じ、日本人アスリートのパフォーマンスを低下させていたのです。

この常識に対して、著者は初動負荷トレーニングを提唱しました。当然ながら、当初は否定的な反応もありました。しかし、同じように当時の常識に違和感を抱いていたアスリートたちから支持を受け、実績を積み重ねていきました。著者が指導した選手の中には、イチロー選手も含まれています。伊藤浩司選手は日本陸上界に一時代を築いた人物です。また、私にとって印象深いのは、ジュビロ磐田が常勝だった頃の主力選手である藤田選手です。こうした著名なアスリートたちが、初動負荷トレーニングを取り入れていたのです。

私がこの本と出会ったのは30代に入ってからで、しかも古本屋で偶然見つけました。当時、私の記憶によれば、4スタンス理論に関する本を探して実用書コーナーを訪れていたはずです。何気なく手に取って中を少し読んでみたところ、非常に重要な内容であることに気づき、購入して帰りました。甲野善紀さんの著書に書かれているような身体技法を、実践的なトレーニング法として確立・普及させようとしていることがわかったのですが、その施設は当時、つくばには存在していませんでした。それ以来、本棚に保管していました。

それから10年以上が経ち、現在では土浦市の郊外に「ワールドウィングつくば」が開設されたことに気づいていました。つい先日、小林香奈選手に関する記事を調べていたところ、彼女が初動負荷トレーニングを取り入れていると記されていたのです。現在では、大塚製薬のランニングチームでも採用されているほど、広く認められた手法となっているのでしょう。

そこで、改めてこの本を開いてみました。すると、重力ランニングと通じる点が多数あることに気づきました。物理学的な計算はありませんが、重力をうまく活用するという基本的な考え方が共通しているため、身体の動かし方に関する技術(身体層レベルでの説明)も似通っています。

共縮を取り除くことは、高岡英夫さんの言葉を借りれば「ゆるんでいる」状態だと思います。手足ではなく、肩甲骨と骨盤を動かすことが重要であるという点でも共通しています。さまざまな理論やメソッドが存在していても、目指しているものは一つなのだと感じます。まるで、一つの山を登るのに複数の登山ルートがあるようなものです。初めは全く異なる場所にいるようでも、登れば登るほど互いに近づいていくのです。

初動負荷走法

初動負荷理論をランニングに応用したものが「初動負荷走法」です。その特徴は以下の通りです。(出典:p32)

① スタートでブロックや地面を蹴らない
② 重心移動を先行させる
③ 膝を高く上げて地面を蹴らない
④ つま先で蹴らない
⑤ 平行に、フラットに着地する
⑥ 腕を振らない

これだけでは理解しづらい部分もあるかもしれません。その場合は、逆の動作を考えてみるとわかりやすくなります。これらの特徴は、当時の常識に対するアンチテーゼとして記述されているため、2025年現在の視点では少々わかりにくいのです。

つまり、著者が直面していた常識とは以下のようなものでした。

  • スタートではブロックや地面を蹴って初速を得る
  • 脚を前方に送る
  • 膝を高く上げて地面を蹴る
  • 接地の最後につま先で地面を蹴って推進力を得る
  • 踵で着地する
  • 腕を前後に大きく振る

現在でも、このような走り方の説明が通用する人は多いと思います。一方で、初動負荷走法の特徴は、特に運動経験の少ない人にとっては理解しづらいかもしれません。

「地面を蹴らない」と言うけれど、どう見ても蹴っているように見えると感じる方もいるでしょう。動作主体の感覚としては蹴っていないのですが、客観的には蹴っているように見えるのです。したがって、「地面を蹴らない」という言葉だけでは説明が不十分だと考えます。もともと身体感覚に優れた人たちの間では共感できる表現かもしれませんが、一般の人々には伝わりにくいのです。

その感覚を伝えるために、著者は専用のマシンを開発しました。言葉による感覚論にとどまらず、一般の人にも実感できる仕組みを用意したことは、著者が本当に苦しんでいる人々を救いたいと願っている証だと思います。その思いは、以下の動画内のインタビューからも強く伝わってきます。

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